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 と、そこへ、誰かの携帯電話が着信を告げた。
 スーツの内ポケットに手を突っ込んだのは貢である。同席の三人に断って部屋の隅へ移動していく。
 が。

「はぁ? ……あぁ、分かった。確認する。メール送ってくれ」

 唐突に素っ頓狂な声を上げた貢に全員の注目が集まってしまった。
 急いで戻ってきて、貢は信田課長にいきなり詰め寄る。

「インターネットを見られるパソコンを使いたい。あるか?」

「それなら、それで見られますけど。何事ですか?」

 それ、と指差したのは会議資料をスクリーン表示するために部屋に一台設置されているパソコンだ。
 もちろん武人も署内ドメインのユーザを持っているので、率先してパソコンを起動する。

 起動を待ちながら、貢は送られてきたメールを確認し、さらに驚いた表情になった。

「うちの息子が犯人に繋がる手がかりを見つけたらしい。サイトのURLが送られてきた」

「サイト?」

「犯罪サイトのようだが。とにかく見ろ、と」

 最新スペックのパソコンは、常駐ソフトがない分起動も早い。
 貢に見せられたURLを打ち込むと、件のページが表示された。

 丁度貢の自宅で同居家族たちが見ていた画面が、彼らの目にも飛び込んでくる。
 一見して眉をひそめた彼らだが、活動報告の画面にした途端に目の色が変わった。

「ネット班呼んできます」

 目にした一瞬でそのページを見ろと言った貢の家族の意図を理解し、吉野班長が部屋を飛び出していく。
 一方、武人も別のブラウザを立ち上げてインターネットメールのページから自分のアドレスでログインし、URLを貼り付けて宛先入力を始めた。
 自分の職場用、個人用、携帯電話、捜査一課代表と鑑識課代表、組織犯罪対策課代表、自分の上司とチーム内の全員、それにここに居合わせている信田課長に吉野班長も、すべてアドレス帳から検索して追加していく。自分の個人用は当然BCCだ。
 件名には三郷会幹部殺害事件に対して付けられた案件名を設定し、内容を軽く明記した上で送信実行する。
 かけた時間はものの三分。関東双勇会二次団体に内偵に出された下っ端とは思えない速さと正確さに、信田課長も息を呑む。

 武人が続けてサイト画面のスクリーンショットを取得し始めたのを見て、信田は貢にそそっと寄って行って耳打ちした。

「こんな有能な子が何で内偵なんかに……?」

「ケーサツは年功序列の縦割り社会だからな。実務能力はあまり勘案されないもんさ。だから俺もこれ以上の出世は見込めないと思って辞めたんだしよ」

「あぁ。土方さん、叩き上げでしたっけ」

「大した大学出てないからなぁ」

 何しろ、町の交番から始めた紛れもない叩き上げだ。
 本庁で警視などという高役職に就いた事自体、奇跡に近いと今でも言われている。

 後ろで何やら自分を評価しているようだと分かっていたものの作業が先決のため反応しなかった武人だが、活動予定のページに至って手を止めた。

「ちょっと見てください。今日と明日、犯行の予定が入っています」

「何っ!?」

 武人に声をかけられて二人揃って画面に注目する。

 実行予定時間を過ぎていることを確認して、武人は携帯電話を取り出した。

「……あ、吉井です。お久しぶりです。
 今移動中ですか?
 ……えぇ、ちょっとお聞きしたくて。
 今日、平塚で何か起きませんでした?
 ……いえ、犯行予告を見つけたんで裏取りです。
 ……えっ!? 爆弾ですか!?」

 話の内容とこの場で直接掛けたという武人の判断基準から、同業者が相手だろうと察せられる。
 その通り、武人の電話の相手は神奈川県警のマル暴刑事だった。
 大倉組に出入するようになってから自然を装って強引に作った人脈で、互いに管轄を越えて漏れてき難い情報のやり取りをしている。
 相手も現在現場に急行中のようで、電話の向こうでサイレンが聞こえていた。

「えぇ、犯行予告と一致します。ネットサイトなんで、後でURL送っときますよ。多分三郷会の殺しと繋がっています。
 ……そうですねぇ、合同捜査になるんでしょうか。上の判断ですから何とも。……はい。お願いします」

 電話の向こうの人物の声は漏れ聞こえてこないが、武人の受け答えで大体の会話の内容が察せられた。

 武人が口走った合同捜査の一言にはたと気づいた信田が慌てて会議室を飛び出していくと、そこには武人と貢だけが残された。
 電話を切るのを待って、貢が問いかけてくる。

「どこの県警管轄かすぐ分かったんだな。地理が強いか知り合いか、どっちだ?」

「どっちもですよ。俺、神奈川出身なんです。
 知っている相手ですから多少心配ではありますが、ここでは確認のしようがないですね。
 情報では、爆弾使用で事務所損壊、人的被害はないとのことでした」

「爆弾なら怪我くらいはあるだろうよ」

「電話の相手も急行中でしたからね。死亡ナシの第一報しかわからないようです」

 相手が民間人とはいえ、隠すような情報でもなくあっさり告げる。
 そうか、と貢もそれ以上突っ込まずに頷いた。
 それから、画面コピーの続きに精を出す武人を改めて見やる。

「これからどうするんだ?」

「捜査はこちらに任せて内偵に戻ります。合同捜査になるならなおさら、怪しまれる行動は慎むようにとうちの上司に怒られますよ」

「そうか。確かに長居はできないな、あんたの立場上」

 それが建前通り内偵に入った先でスパイ役を割り振られた人間なら当然の行動だ。
 武人自身を見れば、そのような取り繕いは今更なのだが。





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