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 同じ頃。
 昔の職場を訪ねて行った父の帰りを待つ間仕事も手につかず仕事用のパソコンでネットの波を泳いでいた宏紀は、突然キョトンと目を丸くして手を止めた。
 同じ部屋で持ち帰っていた仕事をしていた恋人の忠等が、宏紀の手が止まったのを訝しんで顔を上げる。

「……宏紀?」

「忠等。ちょっとこれ見て」

 これ、と指差すのはパソコンのスクリーンで、忠等は椅子持参でそちらへ近寄った。

 画面いっぱいに広げられたブラウザの中には、中途半端に軍隊チックなデザインのホームページが映し出されていた。
 一見するとどこかの警備会社のホームページとも見える。
 ヘッダ部に横いっぱいのイメージ画像を背景として書かれた名称は『全日本治安維持自警団』。

「何だ、これ?」

「もしかしたら、ビンゴ引いたかも」

「……あ? ビンゴ?」

 聞き返して、再び画面をじっくりと検分して見る。

 ヘッダロゴの下には、サイトの趣旨が簡潔に記述されている。曰く。

『我々の日常生活を脅かす闇はそこかしこに潜んでいます。暴力団に窃盗団、詐欺集団etc...
 警察はもはや当てになりません。いつまで怯え続けなければならないのか。
 自分たちの生活は自分たちで守る時代です。今こそ立ち上がれ、若き勇者たちよ!』

 ざっと一読して、忠等は軽く目を据わらせた。

「どこのバカだ、これ」

「……こーいうのに引っかかる人って、結構いるみたいだね。空想と現実の境が上手く認識できてないのかな」

 ホームページ上の他の項目に目をやると、けっこうコンテンツ満載のサイトであることがわかる。
 サイト案内にサイト主の紹介、活動報告、活動予定、企画中の紹介、寄付金募集に関連サイトへのリンク集。
 似たようなサイトや活動に必要と思われる武器類の通販サイトへ通じるリンク集は充実の内容だが、サイト主の紹介では結局正体不明としか分からない内容しか記載がない。IT系企業に勤めるサラリーマンであることはしっかり露呈されているのだが、それで人物を特定するなど不可能だ。

 問題はその他のコンテンツだった。

 活動報告に記載されているのが、固有名詞と殺人の事実を伏せて書かれている三郷会の襲撃事件に、暴行の事実だけを伏せられた大倉組組長の拉致監禁遺棄事件。
 前者はニュースにもなった内容なので威力誇示のための成りすましも疑えるが、後者は関係者以外警察も知らない極秘案件だ。
 犯人に繋がるサイトだと断定してもおかしくない根拠になる。

 一方、活動予定には三つの企画が記載されていた。
 一つは今日が予定日、二つは明日だ。日時、集合場所、計画の概要が細かく書かれており、賛同者は現地集合とある。
 つまり、内容を企画立案しておいての自由参加なのだ。この内容を見て現場へ行けば参加出来、立案だけに加わって当日は高みの見物も良いというわけである。

 このグループの一番の特徴は、リーダーがいないということかもしれない。
 同じ目的を持った見ず知らずの人間が同じ計画をそれぞれバラバラに実行する。その場のノリが旗振り役だ。

 企画を行うページを開くと、そこは二十ほどのチャットルームになっていた。
 仮想敵を絞っただけの名前や実行方法だけの名前を付けられたチャットルームがいくつかオープンになっていて、企画中の案件についてはまとめページがリンクされている。
 この適当極まりない中から具体的に計画に至ったものを予定に昇格して実行に移すというわけか。

「この場合、お父さんに電話、かな?」

「深山のお義父さんに、だな。貢さんには高宏さんからしてもらった方がスムーズに進むだろ。下にいるはずだから呼んでくる」

 さくっと行動を決めて立ち上がり、部屋を出て行く。この判断力と行動力が、不良集団のリーダーだったり生徒会長だったりを歴任した大きな要因だろう。

 部屋を出て行く恋人を一瞬見送って、宏紀も同じように部屋を出る。携帯電話が寝室のある別室に置きっぱなしだ。

 4LDKのこの家は、一階の部屋は年長組の経営する探偵事務所の事務室として使用されていて、二階の三部屋をプライベートルームに使用している。
 内、二部屋がそれぞれ年長組と年少組の寝室で、残りの大きなベランダに面した一室が宏紀の仕事部屋兼パソコンをまとめて置いた共有ルームというわけだ。
 物置にもなっているこの部屋には、家事全般を引き受ける宏紀が入り浸っている。

 携帯電話を手にして共有ルームへ戻ると、高宏がすでに来ていてパソコンをチマチマと弄っていた。
 どうやらホームページのURLをメールするつもりのようだ。
 あて先は、自分と貢と探偵事務所用と、他にもいくつか。

「高宏さん。それ、俺にもください」

「はいよ」

 パソコンの画面をパッと見ての依頼に、高宏も問い返すことなくあっさり頷いた。内容の確認のやり取りなど、この二人には不要のようだ。
 送信されるとすぐに、この部屋に集まった三台の携帯電話がメールの着信を告げた。

 メールを送信した後、高宏はすぐさま携帯電話を耳に当てていた。電話の相手は考えるまでもなくただ一人だろう。

 宏紀もまた、自分宛に受信したメールを別のメールに転送しながら共有ルームを出てベランダへ移動した。
 血縁上の父と古くからの友人に宛てて早急に連絡する必要があり、どちらが相手にせよ一般市民である家族には少々刺激が強い。

 一人手持ち無沙汰になってしまった忠等は、二人のために紅茶でも淹れようと台所へ降りていった。





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