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 はじめに銅膳会の組幹部が殺されてから、ほぼ毎日対策会議が開催されている。
 日々新事実が判明して白熱した会議に、などなるはずもなく、双勇会の幹部と二次団体の代表者が集められた会議は、熱心に対策検討に参加しているのは理事補までの役員と大倉組に個人的に親交のある組織くらいになっていた。

 事件発生から一度も姿を見せていない大倉組の組長と副長の初参加は、そんなダレた空気だったからこそ話題の良いカモだった。
 被害者本人だというのに、事件に対して興味が薄れている者ほど容赦がない。

 対策会議は純和風の豪邸である本家屋敷で行われている。
 本家は一次団体双勇会の組織にとっても本家になっており、その構成員が出迎えやら会場の設置運営などを請け負っていた。
 ズラリと並んだ出迎えの間を抜けて案内を断り屋敷内を歩いていると、途中で先に着いていた他組織幹部ともすれ違った。

 声をかけてきたのは、武蔵野の方にシマを構えている安井組の組長だった。
 七瀬の父親よりも年嵩であるその男は、ふんと鼻で笑って唇の片端のみを吊り上げて笑った。

「ようやくお出ましかね、お姫さん。随分元気そうじゃねぇか」

「これは安井の伯父貴。ご無沙汰してます。こんな所で誰かお待ちでしたか」

 声をかけた相手はお姫さんという呼び方から考えて七瀬の方だったのだろうが、対応したのは背後に控えていた晃歳の方だった。
 七瀬はただ立ち止まっただけで何の反応もしない。

「オメェの出る幕じゃねぇよ、横内。男のケツ追っかけて組を捨てた腰抜けが俺と対等に話そうなんざ、身の程を知らねぇってぇもんだ」

「これは失礼をいたしました。復帰したとはいえ、まだ少し人を警戒していましてね。どうかご容赦を」

 ぐっと肩を引き寄せて亭主面をしてみせる晃歳に、安井は大きく舌打ちをする。
 七瀬が大倉組組長であると同時に、晃歳が七瀬の旦那であるという立場も双勇会幹部公認で周知されているのだ。
 表立って批難しようものなら火の粉は自分に降りかかってくる。

「そのくらい軽くあしらえよ、七瀬」

 安井の背後からそんな声がかかって、全員がそちらへ視線を向けた。
 そこにいたのは、かけられた声相応の相手と、三人の誰もが思っていなかった人物だった。

「孝虎……」

「深山理事補っ!?」

 名を呼ばれた二人は共に苦笑気味でそこに佇んでいた。
 まったく繋がりの見えない二人連れだ。深山は大倉組とも親交があるというほどの仲ではないが、七瀬のことは耳にしていたのだろう。
 観察する態度は崩さずに話しかけてくる。

「大倉のが来たと奥に連絡が行っていてな。総長が首を長くしてお待ちかねだ」

「はい。ありがとうございます」

 礼を言うのは、そうして助けてくれたことに対するものだ。
 立ち去っていく二人を見送って、丁度仕事の件で打ち合わせをしていた相手である孝虎も送り出し、深山は改めて安井に対峙した。

「偉そうな態度はそれだけの役割を果たしてから取るんだな。身の程を弁えるのはお前じゃないのか、安井」

 大倉を庇う義理などないが、目には余っていたのだろう。
 強い者には頭の上がらない小物を一瞥して、深山もまた来た道を戻って立ち去っていく。

 残された安井は悔しそうに足元を蹴りつけていた。





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