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 隣で聞いている宏紀も、悲しそうに父と武人を見守っている。

「お父さん。俺に何かできることはある?」

「……何かしたい気持ちはわかるが、これは警察の仕事だ」

「その警察が、役に立たないんでしょう?」

 確かにそうなんだけどな、と貢は苦笑気味だ。黙って聞いていた深山も心配そうに首を振っていた。
 同情してくれたのはありがたいが、素人が動くと危ない。これは紛れもない凶悪犯罪なのだ。

「俺が動くから、お前はじっとしていてくれ」

「でも……」

「何か頼めることがあれば頼む。だから、勝手に動こうとするなよ」

「それはしないけどさ。余計なことをすると足手纏いでしょうからね。
 でも、こないだ亡くなった樋川さんのお葬式にも行けなかったし、もう少ししたらお線香でもあげさせてもらいに行こうと思ってたから、ついでがあれば引き受けられるよ?」

「は!?」

 一般市民であるはずの宏紀が語った内容は、明らかにこの事件の発端となった殺人事件の被害者と顔見知りであったことを匂わせている。
 宏紀本人以外の全員が驚いて声を上げてしまったのも無理はない。

 やっぱり知らなかったか、と宏紀は悪戯っぽく笑った。

「ガキの頃に林野組でいろいろ可愛がってもらってて、多少顔広いんだよ、俺」

「そういや、土橋組の組長に空手を教わったとか言ってたな」

「ホントに一時だけどね。樋川さんは兄弟子さん。お夕飯をご馳走になったりとかいろいろお世話になったから、不義理にしたくないんだよ」

 もう、二十数年も前の話だ。
 だが、過去に顔見知りになっていることは事実であって、ヤクザは義理人情を重んじる世界だ。
 郷に入っては郷に従えという。宏紀の台詞もまた、郷に従った形だった。

「本当に、協力してもらって構わないか?」

 宏紀の話に何かしらの価値を見出したらしく、深山が宏紀を窺いながら確認するように問いかける。
 もちろん、と宏紀は軽く頷いた。

「今現在、三組織を繋ぐ仲介が遠回りでな。今回は手を組むが本来は対立組織だ。
 直通ルートは作りたくないというのが共通の意見になっている。
 双勇会が仲介からすぐに連絡の取れるルートが黒狼会まででな、銅膳会まで話を通すには黒狼会を間を挟まなきゃならん。
 そこの連絡ルートになって欲しいのだが、可能か?」

「直接本家に通せるか、林野組を通すかは、林野の組長に相談して良いですか?」

「もちろん、相談してくれ。結果を数日中に私に連絡してくれれば良い」

 わかりました、と頷いて、確認のために父親を見やる。宏紀の視線を受けて、貢は仕方がなさそうに肩を落とした。

「一課の課長にアポを取っておく。日取りは先方都合で構わないか?」

「はい、こちらで合わせます。私と住吉の名前は出していただいて構いません」

「むしろ内偵に入っている刑事だと伝わった方が警察も動きやすいな。わかった、知らせておこう。連絡はどこにしたら良い?」

「私の携帯に……で良いですか?」

 答えかけて、確認のため孝虎を見やった武人に、孝虎もコクリと頷く。
 信用していなければしっかりと組を通させるはずで、あっさりした承諾に信頼関係を見て取って貢も安心して頷いた。
 腹の探りあいをしていられる状況ではないが、その心配の必要もないようだ。

 誰にとっても有意義な話合いはそれから三十分続き、土方父子は事件の概要を理解し、双勇会側の三人は宏紀の人脈に感嘆して、お開きとなった。





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