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「それから、戸山が卒業するまでの半年、俺はヤツのカモだったよ。金ヅルだし、ガキの無駄な性欲を適度に解消できる便所だしね」

 淡々と語られたそれは、本人の語りは淡々としていたものの、内容はとんでもない話だった。

 つまり、その半年、不良少年たちは自分が踏みつけにしている相手の正体を知らなかったわけで。

「何で言いなりになってたんだよ」

「丁度その時期、俺はまだ大人しくてね。まさにイジメやすい相手ってヤツで。
まだ、自分の立場を自分の中で消化できてなくて。言いなりになるのと、生まれた立場を受け入れることと、両天秤にかけて前者が勝っちゃったのさ。
それに、最初にされた時、嫌なくせに気持ちよくて。抱かれる気持ちよさを覚えちゃったんだよね」

「それ以来?」

「俺、自分で動くの、苦手かもしれない。人に命令して気持ちよくなれるなら、その方が良い」

 答えて、それから何を思ったのか、七瀬は急に笑い出した。
 首を傾げる貴文に、ちらりと視線をよこし。

「実際、その半年以外、純粋に気持ちよくなることしかしてないよ。みんな言いなりになってくれるし」

「そりゃまぁ、七瀬にオネダリされると自分も気持ち良いからなぁ」

 今は、七瀬と相手の関係は利害関係が一致しているから、良好な関係を築けている。
 七瀬の機嫌を損ねれば、今後一切修復は出来ず、組としての報復すらあるとなれば、七瀬にはそんなに深刻になるほどの危険は無い。
 相手のほうが恐がってくれるのだから。

 大体、七瀬ほどの美人相手に激しく攻めさせてもらえるというのに、それに不満を抱く男などそうはいない。

「で? それと、族を持ってることと、どう関係があるんだ?」

「だから。アキレス腱を預かってもらってるんだよ」

「アキレス腱ってのは、その過去のことなんだろう?」

「そうだよ」

 まったく要領を得ない問答に、貴文は腕を組んだ。七瀬はくすくすと笑っている。

「貴文だって、この件に関しては部外者じゃないだろ?」

「……覚えてるのか」

「そりゃあ。あの時唯一優しくしてくれた人だしねぇ」

 七瀬は平然と笑っているが、それは、憎まれて当然の過去なのだ。貴文は黙り込んでしまった。

 貴文が黙ってしまうと、車内は沈黙に支配されてしまう。
 お喋りな方ではない七瀬は、その沈黙をかえって心地良く感じて、そのまま車を走らせた。

 車内には、落ち着いた音量で洋楽のCDがかけられている。
 車は気まずい貴文を乗せ、横浜新道へと入っていった。





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