ともだち その後 1




「どーしたもんかなぁ」

 広げた市内の詳細地図を眺めて、ユキがぼやいていた。隣からそれを覗きこんで、シュウも難しい表情だ。

 場所は市立図書館の閲覧室。
 ユキの家の仕事場なら市内の詳細地図もあるけれど、それを頼ると仕事の邪魔になるから遠慮したんだ。
 学校の図書室はせっかくあるのにほぼ常に鍵が締まっていて使えない不便な場所だった。

 詳細地図の目的は、昨日お金を貸した中学生の書いた住所を確かめるため。
 川崎市内ではあったけれど、馴染みのない地名だったんだ。

 とりあえず、全員分の住所と名字は突合できたんだけど、その住所そのものが問題だった。
 電車とバスしか交通手段のない小学生にはえらく不便な場所だ。

 貸したお金も大した額じゃないから、面通しだけで利子分使いそう。それはもったいないから、三人揃ってどうしたものかと頭を悩ませていた。

「子供だと面倒くさいよなぁ、足なくて」
「何か行かなくて良い手があれば良いんだけど」

 行かなくて良いってことは、すでに面通しが済んでるツテってことだ。

 そりゃあ、ユキの家業に頼れば良いんだろうけど、まだ頼りたくないしなぁ。




 困ったまま図書館が閉館時間になって、追い立てられるように外に出る。

 出たら、目の前に黒塗りの車が停まっていた。乗っていたのは貴文さんだった。

「やっぱり閉館までいたか」

 運転手付きが当たり前の人なのに、貴文さん一人。

「……もしかして、待ってくださったんですか?」

「いや、時間があったから今来たとこ。金貸しの真似事してるんだろう? 困ってるころかと思ってな」

 ニヤリと笑ってそう言われたけれど、昨日の今日ですでに壁にぶち当たってるなんて普通考えないように思うのに。
 ボクたちが顔を見合せる間もなく、車に乗るように促された。

「久末だっけ?」

「……それ、昨日言ってないです」

「名前でわかるさ、あの悪ガキどもならな」

 てことは?

「有名人?」

「それなりに。オヤジ狩りやなんかでけっこう荒稼ぎしていてな。実は難癖付けるネタを狙ってたターゲットの一つだ。
 この件に関しちゃ、大人の力も好きなだけ頼れ。お前らは下を使えるように成長するべき立場だからな。遠慮しなくて良い」

 お前らって一括りにされたんだけど、該当するのはユキだけだと思う。
 ボクは父の借金のカタだし、シュウは一般市民だし。

 ボクたちを乗せた車は家と反対の方向に走っていく。

「シュウくんっていったね。少し遅くなるけど、家に連絡するかい?」

 しなさい、と命じて良いと思うんだけど、貴文さんはシュウの判断を尋ねた。

「でも……」

「電話が必要なら俺の携帯を使うと良い。家に待っている人がいるなら連絡した方が良いと思うよ?」

 あぁ、そうか。家族の帰りが遅いなら、電話しても無駄だ。貴文さんはそこまで考えて訊いていたのか。

 少し考えて、シュウは結局貴文さんの携帯を借りることにした。
 話は流暢な中国語で、ボクにはさっぱり意味がわからない。

 何回かのやりとりであっさり話を終えたシュウから戻った電話器で、今度は貴文さんが電話をかける。

「あぁ、俺だ。雄太と愉快な仲間たちを拾ったよ。……そう。今久末に向かってる。……んあ? ちげぇよ、偵察だろ。でな……わかってんじゃねぇか。さすがボス。……ばぁか、んなんじゃねぇよ。苦手なんだよ、あのオッサン。……そう。ワリィんだけど、組長権限で頼むよ」

 相手のセリフはわからないけれど、最後の一言で相手は分かった。
 っていうか、いくら若頭だからといって組長相手にその言葉使いで本当に良いの?

 ビックリはボクだけじゃなくて、ユキとシュウも顔を見合せていた。

「今の、組長ですよね?」

「あぁ、そうだよ。ユキくんのオヤジさんに君を借りてるって伝言頼んだから、帰りは心配しないで良い」

 えっと。ボクたちが戸惑った理由はそれじゃないんだけど……。

「組長にその口調で、大丈夫なんですか?」

 思いきってツッコミ入れたユキに、貴文さんは楽しそうに笑った。

「そうか。中居のオッサンは上下関係うるさいからな」

 答えになってない。貴文さんだけは楽しそう。

「俺と七瀬の仲で上下関係気にしたら、七瀬に不気味がられるぞ。良いんだよ、親友なんだからな」

「親友、ですか」

「君たちもそうだろう? 性格は違うけど馬が合う。そういう友人は貴重だぞ。大事にしなさい」

 人生哲学の説教なんてヤクザっぽくないなぁ、なんて思ったのは、本人には極秘だ。絶対怒られる。

「ほれ、着いたぞ」

 言われて外を見れば、いつの間にか住宅街のど真ん中で、一軒の個人宅のど真ん前だった。





[ 62/69 ]

[*prev] [next#]

[mokuji]

[しおりを挟む]


戻る



Copyright(C) 2004-2017 KYMDREAM All Rights Reserved
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -