ともだち 1




 住所が変わり保護者が変わり生活環境ももちろん変わって、学校を丸一週間休んだ。

 連れて帰ってきたなら最後まで責任を持って世話するように、という七瀬さんの組長命令でその一週間はずっと仁さんが一緒にいてくれて、僕の部屋にするようにと与えられた八畳洋室の離れを掃除してタンスとベッドと学習机とを買い揃えて、洋服もいっぱい買ってもらって。

 選ばれるたびに、そんな立派なものはいらないと言ったのだけど、さっぱり聞き入れてもらえなかった。
 服だって、ユニクロで揃えてやると言ったくせに実際に連れていかれたのは子供服のブランド店だった。
 貧乏生活だったボクには、びっくりの連続な一週間だった。

 学校に復帰する初日は、七瀬さんと一緒に車で登校した。
 保護者が変わったことで挨拶とか手続きとかあるらしい。
 帰りは一人だから、道が分かるかって心配してくれたけど、一応ボクもこの土地で生まれ育った地元民だ。
 あんまり心配するからかえって笑っちゃったよ。仁さんも過保護だって苦笑してた。

 一週間ぶりのクラスメイトの反応は、予想通り冷たいものだった。
 一週間も休んでんじゃねぇよ、とか、訳のさっぱりわからない言いがかりだよね。

 想像できてたからショックは感じなかった。
 給食費を先生に肩代わりしてもらってたことで、特別扱いに対する反発はやむを得ないって感じ。

 休んでいたことを心配してくれていたのは、三、四年の時にクラスメイトだった二人の友人だった。
 給食食べたらすぐに教室を出ると、二人とも目の前の廊下で待っていてくれるんだ。

 二人のおかげで学校もつらくない。
 二人には迷惑なんじゃないかって聞いてみたことがあるんだけど、揃って苦笑されてしまった。
 家庭環境のせいでハブにされやすいんだそうだ。

 一人は先週からボクがお世話になっている大倉組の下部組織組長の次男で、中居雪彦。

 一人は中国人の両親と離れて遠縁の中華料理店に住んでいる日本語ペラペラの中国人、李周亀。

 相手の背景は気にしない、大人な二人だ。

 ボクが教室を出たら、すぐに二人で近寄って来てくれた。

「久しぶり〜。元気そうで安心したよ」

「なんか重い病気なんじゃないかって心配してたんだよ」

 クラスが違うからボクが休んでいた理由は伝わってないんだろう。
 大丈夫だよ、ってボクも笑って返す。

「住むところとか保護者とか変わって、少し忙しかったんだ。もう大丈夫」

「保護者って……アル中の親父は?」

「捕まっちゃった」

「ケーサツに?」

「ヤクザさん。ついでにボクも引き取ってくれたよ」

「じゃあ、組長の気紛れで引き取られた痩せっぽっちのガキって、ユタのこと?」

「へぇ。大倉の庇護なら安心だ。良かったな、ユタ」

 人伝に聞いていたらしい納得の仕方をしたのは父親から聞いていたのだろうユキで、何故か裏社会事情に詳しくて安心してくれたのはシュウで。

 ユキは家庭環境のおかげだと分かるけれど、シュウはその知識の出所が不明だ。

「じゃあ、これからは放課後に遊びに行ったりできるよな?」

「どうかなぁ? 聞いてみないとわかんないよ」

 わくわくって顔して誘ってくれるのは嬉しいけどね。
 首傾げて答えたら、だったら聞いてみてよって間髪入れずに付け加えられた。
 放課後に遊びに行くなんてしたことなかったから、誘ってもらえたのは嬉しいけど。

「じゃあ、聞いてみるね」

「早速今日、ゲーセンとかどう?」

「明日以降でお願いします」

「俺も今日はダメ」

「えぇ〜? シュウも〜? つまんねぇの」

 心底つまらなそうに膨れっ面をみせるユキに、シュウがふわふわの癖毛の頭をぽんぽん叩く。
 本当にこの二人は仲が良い。

 このメンバーでいると無邪気な本性丸出しのユキと、このメンバーでいてもクールなシュウは、お互いに性質が違うからこそ補いあえてちょうど良いんだろう。

「じゃあ明日は?」

「俺は明日なら大丈夫だ」

「家の人に聞いてみて次第かな?」

「オッケーだと良いよな。放課後にユタと遊ぶなんてしたことねぇもんなぁ」

 楽しみだな、ってニカッと笑ったユキの笑顔が嬉しくて。
 七瀬さんは許してくれると良いなぁ、ってちょっとわくわくしながら思っていた。





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