俺と不思議なイイ関係 1




 次の日は非番ということで、俺は駅のコインロッカーに置いてあった荷物を取り出し、普段と逆方向に向かう電車に飛び乗った。

 定休のない仕事だけにあまり会えない恋人に会うためには、自分が会う努力をするしかない。
 とはいえ、仕事が邪魔だと思ってしまうのだ。恋人が出来る度に思うことなのだが、今回の相手は特に強くそう思う。

 だいたい、敵対する相手を恋人にするとはなんとも酔狂な選択だ。お互いに。

 今日は事務所でたまった事務仕事を片付ける予定だと聞いているので、直接事務所に向かった。

 資金力もずいぶん付いてきて、組織の中でも大手に分類されるようになったはずだが、上納金が増えているだけで構成員人数はあまり増えていないため、事務所はテナントビルの1フロアという手狭感だったりする。
 このテナントビルはさすがに自前だ。威圧感はあまりない組織だが、暴力団には違いない。

 今時珍しい観音開きのガラス扉を開けると、近くにいた組員に深く頭を下げられた。

「っしゃいませっ!」

 いったいどこのファーストフードだ、と思わず突っ込みたくなる。

 その声に反応して迎えに来てくれたのは、若頭補佐の大谷さんだった。

「いらっしゃいませ、吉井さん。若頭がお待ちですよ」

 恋人が別の組織から引き抜いてきたこの人は、事務処理能力に長けた事務方のトップだ。
 それ故に丁寧な物腰も板についたようで、堅気でもやっていけそうな人だった。

 とはいえ、そもそも大倉組の看板下に集った幹部メンバーは揃いも揃って堅気っぽい物腰の持ち主だが。

 大谷さんの案内を受けて奥の部屋に行くと、彼は俺の顔を見た途端に深いため息をついた。

「くそ、間に合わなかった」

 お疲れのようですね。

「手伝おうか?」

「ワリィ、頼む。こっちの束が手付かずなんだ。大谷はこっち。再計算しといて」

 遠慮なく頼んでくるあたり、信頼感を感じられて嬉しくなる。
 俺も警察官――しかもマル暴――の立場など気にせずにその書類の束に手を伸ばした。





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