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 大聖寺も実は、七瀬が抱かれる快楽に目覚めたきっかけは知らなかった。
 進路のことも友だち関係のことも日々の悩み事も何でも相談を受けてきた大聖寺だが、唯一、七瀬の色恋については欠片も聞いたことが無いのだ。

 初めて七瀬に誘われて抱いたのは、彼が中学三年生の時のことだった。
 その時には、すでに人に抱かれることを知っていた。
 今ほど自由に人を弄ぶ心の余裕は見られなかったし、はじめの頃は大聖寺を誘いはするものの、最初から最後まで大聖寺の広い背中に両手を回してしがみついていた。
 身体の慣れ具合と反応の初々しさのギャップに戸惑ったものだ。

 七瀬が自分の快楽のために人を傅かせることを覚えたのは、大聖寺のおかげだった。

 男に抱かれたがるのは、性癖の問題であるし、百歩譲って良しとすることも出来る。
 だが、仮にもヤクザの跡目を継ぐ身だ。目下の人間に良い様に扱われるのはいただけない。

 七瀬本人も、やはり血筋のなせる業か、人に命じて人を傅かせることに、すぐに快感を覚えるようになった。
 今では完全な女王様だ。

 それで良い、と大聖寺などは思う。

 他の人間では我慢ならない屈辱も、若が命じるならば喜んで受け入れる。
 七瀬のものならばきっと、排泄物ですら喰らえるだろう。
 もっとも、彼がそれを命じるとはとても思えないが。

 これまで幾度となく愛した身体だ。この身体が快楽を得る場所など知り尽くしている。
 誘われるにしたがって差し入れた指をぐるりと回し、覚えのある場所を軽く引っ掻くと、七瀬はとうとう堪えきれずに声を上げた。

 鼻を抜けてくる色っぽいその声に、自然に誘われる。
 すっかり犯されることに慣れた身体は、指の一本ではあっという間に物足りなくなるのだ。

 七瀬は急に起き上がると、そのまま大聖寺に抱きつき、そのがっしりした体躯を布団に押し倒した。

「まだ解れていませんよ、若」

「俺に意見? 偉そうだねぇ」

「いえ。私はただ、若の身体を案じて……」

「俺がそういうの嫌いなの、良く知ってるはずだな? 大聖寺」

 急に変わった口調に、大聖寺は押し黙るしかなかった。
 じっと見つめられる視線の痛さから、顔を背けることが出来ない。

「失言でした。お許しください」

「ダメ。許さない。お仕置きが必要だと思わない?」

 本気で怒ったわけではなかったのだろう。口調はすぐに元に戻り、楽しげに恐い台詞を吐いた。

「お仕置きその一。俺より先にイっちゃダメ」

 その一、ということは、その先もあるのだろうと察しがつく。
 が、言われた指令は何とか可能なレベルで、大聖寺は返事とともに頷いた。
 その返事に、七瀬はにこりと笑うが。その笑みが更なる企みを意味することは間違いなさそうだ。

「お仕置きその二。俺の中に出さないこと」

 それは、さすがに辛い。
 大聖寺本位で動けるのならばともかく、この姿勢は騎乗位だ。いつものように搾り取られることは容易に想像できる。

「お仕置きその三。ゴムはつけちゃダメ」

 つまり、生で七瀬の中に押し込まれ、七瀬の動きに翻弄されつつも、七瀬より先に達することも七瀬の中に吐き出すことも禁止、というわけだ。

 それは、どう考えても無茶だった。
 七瀬の身体に包まれる快感は、体感して実感済みなのだ。
 あの快楽の中、達することを禁じられるなど、不可能に等しい。

 となれば、そのお仕置きに失敗した場合のさらなる罰が気になるところだが。

「もし出来なければ?」

「出したものは自分で綺麗にしな。飲めとは言わないけど、指で掻き出すだけじゃ綺麗に出せないよ。ってことは、どういうことか、わかるよね?」

「……はい」

 さすがに、自分が出したものを口にするのは嫌悪感を拭えない。
 さすが七瀬というべきか、お仕置きも罰も、実利を兼ねていた。すべては、自分の快楽のために。

「じっとしてて」

 耳元に囁かれる、色っぽいかすれ声。
 固く屹立したソレに手を添えて、七瀬は大聖寺の腰を跨ぐ。
 中年もいいところのオヤジだが、持ち物は随分立派だ。

 七瀬の柔らかく温かな胎内に包み込まれただけで、射精感が否応無しに大聖寺を襲う。
 この快感を、目の前で七瀬がイヤらしく腰をくねらせるのを見せられながら、最後まで耐えなければならない。

 耐えるのは地獄だが、罰を甘んじて受けるのもまた、決断が必要だ。

 七瀬のサド気質は、相手に痛みを強要しないだけに、その本性を忘れさせられてしまう分、余計に厄介だった。

「わ、若。俺は、もうっ」

「飲む?」

「えっ!? い、いや、飲まなくて良いと……」

「早すぎ。もっとちゃんと耐えろよ。男だろ?」

 いや、男だからこそ辛いのだが。

「あぁ、イきそう……」

「若、若、もう、俺は……っ!」

「んぅっ」

 気持ち良さそうに仰け反りながら達する七瀬の迸りを鍛え上げられた腹に受け止め、大聖寺もとうとう堪えきれずに身を震わせた。

 内に受け入れていれば、それは気付くものなのだろう。
 呆れたような表情でねめつけるように見つめる七瀬に、大聖寺は身を縮めた。

「大聖寺……」

「すんません。罰を受けさせていただきやす」

 苦々しげに眉を寄せるのは、自分の粗相に対する自省の念が理由なのだろう。渋々ながら、七瀬の後腔に唇を寄せる。
 そんな大聖寺を、七瀬は満足そうに見つめた。

 その口元に浮かぶのは、女王様の微笑だった。





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