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 家に戻った七瀬を待っていたのは、父だった。座りなさい、と言われ、向かい合う。

 けして大柄でも筋肉質でもない、若い頃はきっと女性にもてたことだろうと想像ができる、優しい顔立ちの父だ。

 同じ屋根の下で幼い頃から見ている相手に、今更感慨などは無いが。

 さて。そこに呼ばれた理由だが。
 七瀬にはなんとなく察しがついていて、実に居心地が悪かった。

 銃取引を止めに行ったのは、確かに組長許可を貰った組の仕事だ。だが、命を狙われるような無茶をするとは思っていなかったのだろう。

 体力も武術の心得も無い七瀬を、組長はまだまだヒヨッコだと軽視している。
 その親を見返してやろうと意気込んだ結果なのだ。
 貴文と戸山だけならまだしも、意図していなかったとはいえ、晃歳まで巻き込んでしまった。言い訳などできるはずもない。

「七瀬。俺が言いたいことは、わかっているだろうな?」

 深いため息を吐いた後、組長に言われたのはそんな問いだった。

 想像がつくことならばいくつかあるが。
 いいえ、と七瀬は首を振った。確信はないのだから、わからないとしておくべきだ。

 父は、子供の頃から今も変わらず優しいが、公私混同はしない人だった。
 息子だろうと、失敗は失敗として罰する公平さを持っている。

 まぁ、誉められることではあるまいさ。
 そう、七瀬はごく簡単に考えていたけれど。

「逃がしたのは拙かったな」

「すみません。人手不足で」

 いや、そもそも、買い手を捕らえるつもりならもちろんあったが、売り手は最初から全員逃がす予定だったのだ。
 逆の意味で誤算だった。

「この程度のことで降格処分は考えていない。お前自身が失敗してお前自身が標的になっているんだ、お前が解決する話さ。
 もちろん、お前はうちの若頭だし、全力で守らせよう。だが、次は無いぞ」

 父の言葉に、七瀬は頷くに留めた。今反論するつもりは無い。
 それに、言われるまでも無く、報復は考えているし、考え付くまでは大人しくしているつもりだった。

 自分はともかく、貴文や戸山まで、これ以上危険に晒したくはなかった。
 今回は相手が悪い。勝算百二十パーセント、と断言できない以上、手は出せなかったのだ。

「それで? 何か策はあるのか?」

「今のところは何も。ただ、閉じこもって大人しくしているくらいでしょうか」

 何度も言うが、相手が悪い。
 何しろ国際的マフィアとカタギのサラリーマンだ。どちらもヤクザのルールとは違う場所で生きている。
 裏での行動が有効な相手ではないのだ。正面から真っ向勝負するしかないのだろう。しかも、負けたら命は無い。

「そうか。それは困ったな」

「……何か?」

 大人しくしていろ、とは、この目の前にいる組長の命令だったはずだ。
 大人しくしている、と本人が言うのだから、困ることなどなかろうに。

「来月の定期連絡会だ。今回は、将来を担う若手で会合を開こうと言われている。お前しかおるまい?」

「あぁ。……そうですね」

 元々、幹部で、という話なので、貴文が代理で行っても構わないのだろうが、そうすると、貴文が幹部に属する構成員である事実を外に知らしめるのと同時に、神龍会にも貴文の立場を知らせてしまうことになる。今のように本人が動き回ることは出来なくなるだろう。

 それに、他の組の連中は、七瀬姫に会うこの機会を楽しみにしているのだ。今後の友好関係のためにも、七瀬が出席するしかあるまい。

「良いですよ。出席します」

「護衛の準備をしておこう。ただし、会合内は一人だ。大丈夫だな?」

「そんな身元の保証される場で堂々と襲ってくるほど、馬鹿ではないと思いますよ?」

 少し余裕を見せてそう言って笑えば、父は満足そうに頷いた。





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