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 パタン、とベッドに沈み、荒い息をつく七瀬を、戸山の手が労うように撫で上げる。

「どうだった?」

「……感想を聞くなら、自分から話すべきじゃない?」

「大倉の抱き心地は、中坊の頃から知ってる」

「戸山さんに抱かれるのも初めてじゃないよ」

「俺は、俺の罪を思い知ったよ。最高に気持ち良い」

「それ、さっきも言ってたねぇ」

 布団に顔を押し付けて、片目で戸山を見上げていた七瀬は、少し関心を持ったらしい台詞を吐いて、よっこらせ、と身体を起こした。
 とろりと足を伝うモノを感じ、眉を寄せる。

「気に入ってなくちゃ、中には出させないよ。おれもさすがに病気は恐い」

「俺には無いって確信でも? かなりいろんな奴にヤラれてるけど」

「ないよ。渚沙のお墨付き。ちゃんと性病チェックはさせてるし、エイズ持ちもいない。戸山さんだって、定期的に検査しろって渚沙に言われて無い?」

 体液を交換するような行為をしている自覚はあるらしい。
 知らない所でチェックはしっかりされていたことが、少し意外ではあった。

「病気を恐がらない奴にはさせないしね」

 言われて、それには納得する。
 病気を恐れる人は病気を持つ確率が低い。各自の心がけという奴だ。

「さて。シャワー浴びてくるよ。中のモノ、流してこなきゃ。お腹壊しちゃう」

「手伝おうか?」

「遠慮しとく」

 ひらひら、と手を振って、七瀬はシャワールームに直行。
 鍵のかかる音は、戸山の親切の押し売りを拒絶したものらしい。

 七瀬を見送って、戸山は改めて部屋の隅で物思いにふける旧い友人を見やった。
 聞こえていただろうに、こちらには見向きもせず、ブツブツと呟いている。

「近江?」

「貴文」

 こちらには顔を向けないまま、貴文は戸山の声に短く答えた。
 それが自分の名前ということは、呼びなおせ、ということらしいが。

「何か悩み事なのか?」

「他人には教えねぇよ」

「大倉は苗字で呼んでも咎めねぇけどなぁ」

 他人行儀はやめろ、というような態度に、戸山はくっくっと楽しそうに笑った。
 名前に拘るようでは、貴文もまだまだだ。

「まだ他人だろ?」

「俺の片腕になるんじゃねぇの?」

「大倉にはまだ何も言われてねぇよ。まぁ、近江がそう思うんならそうなんだろうけどな」

「投げ遣りだなぁ」

「事実だろ?」

 今度は、貴文が苦笑する番だった。だが、その笑顔も心なしか元気が無い。

「何か問題ごとか?」

「まぁ、問題っちゃあ、問題だよ。
 どこに隠れてやがるんだか、この俺様が八方手を尽くしてるってのに、尻尾すら掴めねぇ」

 話が見えない戸山は、不思議そうに首を傾げた。

「それ、俺に話してわかることか?」

「だから、他人には言えねぇって」

 もちろん、揶揄もそれには含まれていたが。文字通りの意味でもあったらしい。
 そうか、と納得して、戸山はシャワールームに目をやった。まだ水の音が止む気配は無い。

 しばらくして、戸山が横たわったベッドでうとうとし始めた頃。
 ようやく七瀬がバスタオルで頭を拭きながら戻ってきた。
 上半身は裸で、下は穿いていたチノを身につけている。

 こうして見ると、確かに華奢ではあるが男にしか見えないのに。
 何故ああも色っぽくなるのか、実に不思議だ。






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