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戸山の手が服にかかっても、抵抗の色を見せないのは、許したからなのだろう。
「相変わらず、綺麗な肌だな」
「女みたいだって?」
「ふん。肌の良し悪しに男も女もねぇだろ」
あいかわらず、とはおそらく、中学生の頃と比較しているのだろう。
十年も経てば、肌も歳を取る。
それを、あいかわらず、というのには、もちろんそれなりの理由があった。
「何か特別な手入れでもしてんのか? まるで赤ん坊の肌だぞ」
「特に何もしてないけどねぇ。たまに温泉に行くくらい?」
「美肌の湯?」
「気にしたことないけど。あっちこっち」
「温泉好きなのか」
「ドライブ好きなんだよ。目的地兼休憩地が温泉が多いってだけの話。伊豆箱根は制覇したなぁ」
くっくっと楽しそうに笑いながら、七瀬は気持ち良さそうに戸山に身を委ねていた。
七瀬を抱くのは久しぶりで、女王様七瀬が相手なのは初めてのはずなのに、戸山は実に良く七瀬の扱いを心得ているらしい。
お伺いを立てながら、丁寧に施していく愛撫は、まるでマッサージのように心地が良く、安心して身を任せられる。
ためらいなく他人のイチモツを口に含むのに、変わったなぁと実感するのだけれど。
「大丈夫?」
七瀬らしくない訊ね文句に、戸山は不思議そうに首を傾げた。
「何が?」
「そんなもの、舐めるの嫌でしょ?」
「いや、全然。お前が嫌なのか?」
「うぅん。舐めるのも舐められるのも好きだけど。屈辱、って思わないの?」
その訊ねられた理由がようやくわかって、戸山はははっと簡単に笑って寄越す。
「昔はな、思ったような気もするが。大倉のは、ふわふわで気持ちが良いな。まだあまり感じてないのか?」
「だいぶ反応してると思うけど」
「何だ、だいぶ、か」
ふぅん、と答えるのは、まだ「だいぶ」と言えるだけの余裕があるのが癪なのか、もしくは意外なのか。
ソレを柔らかく握り、手の中で弄ぶ。
先に浮かぶサラリとした先走りの液を舌先に舐め取る仕草は、けして嫌そうではなく、むしろ嬉しそうですらあった。
これはもしかして、制裁のつもりが、マゾ気質を開花させちゃったかな?と七瀬はこっそり思う。
肩をすくめたのがわかったのか、戸山が物思いを咎めるように後腔を乱暴に暴き始めた。
いつもなら、そんな乱暴な仕草に怒り出す七瀬なのだが。
痛みを知っている人は乱暴に見えても心遣いがあるらしい。
かえって気持ち良さそうに七瀬は声を上げた。
「気持ち良いのか?」
「戸山さん、上手くなったでしょ」
「でしょ、と言われてもなぁ。痛さを知ると力加減もわかるものみたいだぞ」
この辺気持ち良いだろ、と半分断定して確認するのに、七瀬は否定も出来ずに素直に快感の声を上げた。
いつのまにか指が増えていても、七瀬の反応は快楽でしかなく。
「このまま、良いか?」
「……ん。……いい、よ。その、まま……中、出して」
「マジ?」
「や、んっ。……ちょ、もうっ。……早くっ」
「お、おう」
すでに指を三本も埋められて、それでも快感に身を捩っていた七瀬のオネダリに、抗える男がいるなら見てみたい、と戸山などは思う。
抱かれることを知っている自分でこうなのだから、普通の男はなおさらだろう。
いきなり指を抜いて、抱かれようが何しようがオスの本能は忘れなかった、いきり立ったそれを、口をゆっくり閉じていくその穴に差し入れる。
すっかり解きほぐされているその場所は、戸山の体格に比例したソレを難なく飲み込み、もっと奥へと誘うように蠕動する。
本来、異物を外に追い出すためのその無意識による筋運動は、何故か異物を自ら引き込む方向に蠢いているようだった。
身体の働きすら変えてしまったそのきっかけが自分だというのなら。
それは確かに、責任は取るべきで。
「……大倉」
「っ……はぁ、はぁ。……ん? なぁに?」
攻め立てる動きをピタリと止めて声をかけられ、七瀬は潤んだ瞳をそのまま戸山に向けた。
うっとりと、まるで恋人を見るような甘い視線だが、その実、頭の中は至極冷静なのは、それもまた周知の事実だ。
「俺を、お前の舎弟に加えてくれないか?」
「……それ、ベッドで話す内容?」
「たった今、俺の罪をまた一つ思い知った」
「罪深いねぇ」
「まったくだ」
イエスもノーも無いが、戸山の言葉は七瀬にちゃんと届いている。
簡単に答えが出せるものではないのは理解しているつもりだ。だから、七瀬に認識されれば、その場は役目を終えるわけで。
再び動き出した戸山に、七瀬は両腕を伸ばして抱きついた。
それからは、早かった。
七瀬に導かれるまま、本能に身を任せて攻め立て、七瀬もその身体と声で男を煽った。
戸山がその精を吐き出したのは、それと自覚する前で。
まさしく、搾り取られた感覚だった。
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