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同じ複数人プレイでも、戸山の場合と七瀬の場合では、勝手がまったく違う。
戸山は一方的に犯されるだけだが、七瀬はその場の支配者なのだ。
気持ち良いことならば許すが、嫌なことなら容赦なく蹴り飛ばす。
まずは忠誠心を確かめるテストとして、足にキスを要求する。
これだけは、仕事で抱かれるので無い限り、欠かせない手順だ。
七瀬が抱かれる立場だからこそ、立場を明確にする必要があった。
もちろん、足だから、キスを受ける前に綺麗に拭うのだ。本来は。
そのためにタオルを洗っていたら、その手を戸山に止められた。
「俺がやる」
言うが早いか、タオルを奪い取って、給湯器の湯に浸した。
まさかそこから奪われるとは思っていなかった七瀬は、困った顔をしてそれを見守ってしまった。
「で? これ、どうするんだ?」
「足にね。キスしてもらおうと思って。綺麗にしないと、さすがにイヤでしょ?」
「拭いてやろうか」
「うーん。そこまでさせるのはさすがに初めてかなぁ」
嫌ではないのか?と思って戸山を窺い見れば、戸山の方でも何故か驚いていた。
貴文に確かめるように視線をやるが、聞いていなかったらしく返事は無い。
「今まで誰もやろうとしなかったのか」
「……なかったねぇ。気付かなかった。今度から、それもさせようかな」
戸山がギュッとタオルを絞ったのを見届けて、貴文が待っているベッドへ戻っていく。戸山も後を追った。
先に寝転がっている貴文をシッシッと端に追いやって、ベッドに腰をかける。
七瀬が自分から足を差し出す前に、戸山に片足を持ち上げられて、機嫌良く笑った。
「なんか、女王様にでもなった気分」
「実際、女王様だろうが」
何言ってんだ、と鼻で笑われても、それすら七瀬には賛辞に聞こえた。
女王様の自覚はあるし、意図してそうしているのだから、意図を汲んで断言されることほど嬉しいことは無い。
「屈辱とは思わないの? 昔は奴隷扱いしてたくせに」
「あの頃から、大倉の本性を知ってたらなぁ。下僕第一号に名乗りを上げただろうに」
「それはないでしょ。あの頃の戸山さん、キレまくってたもん。他人に膝を折るなんて、考えられなかったと思うよ」
話しながら、靴下を脱がせ、指の股まで舐めるように拭っていく。
仕上げにキスを受け、快感に眉を寄せた。
「気持ち良い?」
「もっとちゃんと舐めて」
すでに甘い息を吐きながらの要求に、戸山はそれを肯定と取って、七瀬の細く華奢な足に丁寧に舌を這わせた。
その七瀬の背後に忍び寄り、貴文はうなじに口付ける。
戸山に対抗意識でも抱いたのだろうか。
「貴文。やる気なかったんじゃなかったの?」
「何言ってんだ。して欲しいくせに」
「別に。戸山さんだけで十分だよ」
「嘘付け。気持ち良いんだろ? もっと強請れよ」
普段から対等に話をするせいか、背骨をなぞりながら、七瀬を煽るような言葉を口にする。
それは、マゾヒストになら快感かもしれないが、自分が上位に立ちたい七瀬には不快でしかなかった。
だから、七瀬は思いっきり眉を寄せる。
ぺしっと音を立てて、額を平手で叩き、そのまま向こうへ押しやった。
「そういう意地悪を言う人にはさせてやらないよ」
「あ、うそうそ。ごめん、七瀬ぇ。ね、触らせて?」
「ダメ。向こうで反省してなさい」
向こう、と指差したのは、ベッドの上ですらなく、部屋の片隅。椅子が置いてあるだけマシだが、他には何も無い。
ついでに、戸山に開放された足で蹴飛ばされ、貴文は渋々ベッドを降りた。
戸山がそれを見送って喉で笑っている。
「セフレじゃなかったのか?」
「うるせぇ。たまには失敗もするさ」
ふん、と不機嫌に鼻を鳴らし、その椅子にどかっと腰を下ろした。
戸山は楽しそうに笑いながら、七瀬の足を綺麗に拭っていく。
戸山の丁寧な仕草に満足の表情をする七瀬を、貴文は二人がこちらに意識を向けていないことを確認しつつ、何故か嬉しそうに見守っていた。
両足を終えて、タオルをポイッと手近の棚に放り、七瀬に覆い被さる。
押し倒されるままに身体をそこに横たえて、七瀬は戸山の首に両手を伸ばした。
特に何を確認するでもなく、自然に交わされたキスは、次第に濃厚に変わっていき、お互いにお互いを高めあっていく。
身体が熱くなる。
「脱がせて良いか?」
「先に脱いで」
お伺いを立てて命じられて、ささっと脱いでしまう。
恥ずかしがる様子はなかった。いつも抱かれている時は自分で脱がさせられるし、待たせると七瀬が機嫌を悪くするのは学習済みだった。
男に抱かれる立場になって随分経つが、それでも、戸山のがっしりとした体格は相変わらずで、筋肉のある身体は華奢な七瀬には縋りつき甲斐のある心地の良いものだった。
もたれかかり、気持ち良さそうに目を細める。
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