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 ふと、何かに気付いたように晃歳に視線を向けるので、晃歳もまた、七瀬に振り返る。

「ここで会ったのも何かの縁ですし。ちょっと内部情報を漏らしてもらえません?」

「内部情報? ネタによるなぁ」

 本来ならネタによらなくとも何も話してはいけない間柄の二人だ。
 が、ここであっさり断ると、七瀬がそのネタについての情報を欲しがっている、という情報を晃歳側も手に入れ損ねる。
 となれば、何が知りたいのかくらいは聞いておくべきなのだ。この商売、意外と情報戦の面が大きい。

「実は、チャカの密売取引のネタが飛び込んできましてね。辰巳組さんはやりそうにないし、どこだろう?と思って」

「チャカ? どこで?」

「あぁ、やっぱり違う。ってことは、横浜かなぁ?」

 どこで?の問いかけは無視して、自分一人で納得する七瀬に、その反応こそが判断基準なのだから聞き逃しの可能性も低く、晃歳は答えを待つべく話に相槌を打って返した。

 さすが立場の似た二人だ。腹の探りあいまで、息はぴったり合う。

「桜井の可能性もあるだろう?」

「桜井さんは、仕入れたところでシノゲませんよ。実入り予測に対してリスクが大きすぎる。
 それに、若頭には確認済みです。足元に爆弾作られてご愁傷様、ですって」

「他人事か」

 ということは、その取引場所は桜井組のシマとは無関係の場所ということになる。
 大倉組に情報が入っていること、桜井組のシマから離れていること、七瀬があっさりとは場所を明かさないことから考えるに、おそらくは、大倉組のシマの中なのだろう。
 しかも、辰巳組にも縁があるはずだ。まっさきに「しそうにないし」と言ったことからも、関わりがあることが伺える。そして、大倉組の仕事では無い。

 総合的に判断し、それに適した場所を一箇所、はじき出した。

「扇島か」

「ご明察」

 大倉組でも辰巳組でもないなら、第三者が絡んでいる。
 双方ともけして小さな組織ではないのだから、勝手にシマの中で取引を行い報復を招く愚は、余程のバカでない限りは冒さないだろう。

 とすれば、双方に近く、かつ、直轄地ではない場所が妥当なのだ。
 そんな条件に当てはまる場所が、晃歳が言い当てた『扇島』だった。
 丁度双方の間に位置し、大企業が半分を丸々所有のため、どちらも入り込む隙を見出せない、空白地帯。

「あんなところでキナ臭い真似はさせられないな」

「えぇ。とばっちりを受けるのは遠慮したいですね」

 ここまで話せば、二人の意思の疎通も不自由は無い。
 頷いて、七瀬は判断を待つように晃歳を見やった。見られた方も頷いていた。

「なるほど、由々しき事態だ。こっちでも調べてみよう。わかったことは流すよ。七瀬に直接で良いか?」

「ありがたいですけど、良いんですか?」

「有益情報をくれた礼だよ。お隣同士、持ちつ持たれつ」

「ありがとうございます。ぜひ、よろしく」

 礼を言って手を差し出せば、向こうもまたこちらへ向き直ってその手を握った。それはまさしく有効のしるしで。

 確かに初顔合わせは昨夜成功を収めたが、本当に友好関係を結べたのは、今この瞬間だった。





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