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 個性的であるということは良いことだ、と七瀬などは思う。
 世の中の人間が全員同じでは面白く無い。自らの個性を認め、他者に表現できるというのは、実に好ましい。

 そのあたりは、組の人事には定評もある七瀬の視点で考えれば、材がわかりやすいほど適所に置きやすい、という理由も含まれていたのだが。

「それで。本心からそんなことはまったく期待していないと?」

「うちの幹部連中は、抱いて手懐けて来い、とお達しでしたけどね」

 けど、と逆接を使うのだから、本人はまったくその気が無いということなのだろう。
 そのつもりはなかった七瀬の意思とも合致していて、ありがたい限りだ。

「そんなに確認するということは、もしかして実はそのつもりでした?」

「そのつもりがなかったんで、求められたらどうしようかと思ってました。
 まぁ、この立場ですし、常に覚悟はしてますけどね」

 求められれば拒まなかっただろうとは思う。
 父のからかいが的中で面白くないが、確かにいい男だし、好みのタイプなのだ。

「でも、何でまた、そんな身売りみたいなことしてるの?
 仮にも小さくない老舗暴力団の若頭が」

 今までの堅苦しい語り口を歳相応に改めた晃歳に、七瀬は少しだけ首を傾げ。

 どうやら、公式とプライベートで口調を変えたいらしい。そういえば、名乗りあう前にからかわれていた時は、タメ口だった。

 その問いに、七瀬は誤魔化しもせずに答えた。

「需要と供給と立場の相互作用による検討の結果だよ」

「需要と供給ってのは、大倉さんとのパイプを求める側と?」

「俺の性癖」

「男が好き?」

「好きかどうかはさておいて、身体の相性が女より男だった」

 良くわからん、という顔をした晃歳に、七瀬は遠慮なく笑わせてもらった。

 それはまぁ、仕方の無いことだ。
 好きかどうかが、普通は最も重要だろうに。しかも、男が他者に組み敷かれることを許容するのだ。それなりの理由ときっかけが必要だろう、というわけだ。

 事実としては、恋だの愛だのを知る前に抱かれる快感を知ってしまっているのだから、一般論にはどうしても当てはまらなかった。
 そもそもきっかけが自分の意思ではないのだ。

「俺は女が良いけどなぁ」

「男の経験は?」

「いや」

「そのうち経験することになると思うよ。この世界、上下関係を思い知らせるためとかで、すること多いから」

 気持ち良いらしいよ?と勧める七瀬に、晃歳は眉を寄せるのだが。

「それでいくと、大倉さんは一番下になるだろう?」

「俺は女王様だから」

「なんとなく、納得」

 女王様の一言に納得されて、それはそれで複雑な表情になる七瀬だったりする。

「そんなにキツく見える?」

「いや。傅きたくなる雰囲気がある」

 それはきっと、七瀬自身には永遠に実感できないものなのだろう。こんな雰囲気を持つ青年に、そうそうお目にかかるものではない。

 案の定、七瀬は納得できない面持ちで首を傾げた。

「傅きたく?」

「そう。こんな風に」

 頷いて、晃歳はおもむろに立ち上がると、七瀬の座るソファの横に立ち、床に膝を突いて片手を胸に当てた。大昔の貴族の執事か騎士あたりがやりそうな姿勢だ。

「御用をお申し付けください」

 悪乗りしてそう言う晃歳に、七瀬は驚いた表情でぽかんと彼を見返し。
 やがて、ぷっと吹き出した。

「やだもう。横内さん、似合いすぎて恐い〜」

「あれ? 似合う?」

「二枚目がやると様になっちゃうんだよ。ご主人様を誑かして落としそう」

 あっはっはっと実に楽しそうに笑っていて、晃歳はそんな七瀬に少し不機嫌な表情を見せた。
 それから、ひょいと肩をすくめて立ち上がる。

「誑かして落としてみようか?」

「貴方が? 俺を?」

 興味ない、というような発言をした人の発想とは思えないので、七瀬は本気にしなかったが。
 晃歳もまた、それ以上の言及はせず、七瀬の向かいの席へ戻っていった。

「また、お会いできますか?」

「えぇ、いつでも」

 それが社交辞令とは思えず、二人は確認しあうように顔を見合わせ、頷きあった。

 立場としては、敵対することもあり得ないわけではない、お互いに別の暴力団に属する、しかも組長と若頭だ。
 だが、二人はそれぞれにお互いを、気の合う友となれる人だと認識していたわけである。

 短い間ではあったが、内容の濃い対面は終わり、次は美味い物でも食いに行こう、と約束をして、二人はホテルの前で別れた。

 時間にして、たった三十分足らずの面会だった。





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