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七瀬を追って、貴文も外へ出た。
七瀬は、どうやら車に常備してあるらしい、煙草に火をつけていた。
貴文に気づき、その箱を差し出して首を傾げる。
貴文もそれを一本貰って、火をつけた。
実際、煙草でも吸って気を紛らわす以外に、すべきことなどなかった。
「……なぁ」
「くどいよ、貴文。せっかく戸山さんが一人で償ってくれてるんだ。彼の犠牲を無にするつもり?」
ふぅ、と吐き出された紫煙は、貴文にとっては見慣れないものだというのに、ごく自然な仕草で驚かされた。
つまり、本人にとっては慣れたものなのだろう。
「……七瀬って、煙草吸うんだな」
「はぁ? ……あぁ、うん。たまにね」
突然変わった話題に戸惑った反応で、七瀬は軽く肩をすくめて返し、それから、くっくっと笑い出す。
「貴文って切り替え早いなぁ」
「取り柄だからな。……じゃあ、せめてアイツに会いに来るくらいなら、良いか?」
「もちろん、良いよ。構わない。ついでに、一緒に考えてやったら?」
「何を?」
「戸山さんに聞いて」
聞いて、ということは、後で会うことを推奨しているのだろう。
わかった、と貴文はそれ以上尋ねずに身を引いた。
しばらくすると、バイクが一台ずつやってきて、駐車場内に人が集まっていく。
ちなみに、今日は平日で、集まったメンバーの大多数がどう見ても社会人だ。
「今日、何かあるのか?」
「貴文の顔合わせ。主だった奴らを呼んでみたよ。
後で遠乗りに出るから、貴文、戸山さんのケツに乗せてもらいな」
吸い口ギリギリまで吸って煙草の火を消しながら答える七瀬に、今回の訪問にはいろいろ気を使ってもらっているのだと気づき、貴文は深く頭を下げた。
やがて、整備工場の裏口から渚沙が出てきた。
他に男が三人、わらわらと後に続く。
出てきた渚沙は、まっすぐ七瀬に近づいてきた。
「待たせたか?」
「大して待ってないよ。戸山さん、出れそう?」
「今シャワー浴びさせてる。で、どこに行く?」
「みんなはゆっくりでいいの?」
七瀬が呼び出したのだから、時間制限など考えているはずもないというのに、七瀬はそうイトコに確認する。
相手が七瀬だからこそ、不自然な気がして、貴文は二人を見やるのだが、どちらもその問いを自然なものとして扱っていた。
「今日は、そのまま夜にまた出るから、いつまででも良いぞ。親父も公認」
「良かった。じゃあ、箱根まで行く? 半分に絞って」
「良し、じゃあ、くじ引きさせるか。七瀬は俺のケツだろ? 近江さんは?」
「戸山さんと」
「じゃあ、残りを組めば良いな」
くじ引きさせてくる、と言って、渚沙はそそくさと離れていく。
かわりに、裏口から出てきたのは、貴文も知っている顔で。
「行って良いよ」
「七瀬?」
「良いから。行って」
追いやるように手を振られ、貴文もそこを離れる。七瀬は一人その場に残り、二本目の煙草に火をつけた。
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