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 首元がくすぐったくて、深い眠りから覚醒する。つるりとした感触が喉を滑っていくのがわかる。哺乳類の温かさを持つその物体は、肌触りをよく知っているから、僕は正体を疑う必要すらなかった。

「るふぃる?」

 寝ぼけた掠れた声が出た。寝起きだからしょうがないけど、自分でちょっとびっくり。

 それは、ルフィルの混合種特有の触手の感触だった。シースーの身体のように、長さも太さも自由自在のその触手が、一つはまるで指のような細さで喉元をなぞり、もう一つを随分太くして僕の腰を抱き寄せる。がっしりとしたそれは、僕の体重なんて軽々持ち上げてしまう力強さがあるから、安心して体重を預けていられる。

 くくっとルフィルが笑うから、僕はつぶったままだった目を開けた。

 僕に覆いかぶさるように僕の身体を跨いでいるルフィルの顔が、目の前だった。その視線は、僕の顔より少し下に向いていた。

『喉仏、出てきたな』

「え、本当? やだなぁ、男っぽくはなりたくないんだけど」

『あぁ、半分は女だからな。だが、声変わりはすでにしているのだ。わかっていたことだろう?』

 宥めるようにそう言われて、僕はむっと唇を尖らせる。そりゃ、声変わりはしたけれど、どこまでが男性の特徴を現してどこまでが女性の特徴を現すのか予想がつかないから、こうだったら良いな、っていう願望はあったんだよ。喉は完全に裏切られた。

 だって、声変わりは確かにしたけど、僕の声は比較的高いから、低めの女性の声にも聞こえるんだよ。だから、期待してたんだ。体格も丸っこくて女性的だし、喉仏も出なくて済むかなって。

 なんだか、すごく残念だ。

『なんだ、随分がっかりするのだな。嫌なのか?』

「ルフィルは嫌じゃないの? 僕に喉仏があるの」

『いや、まったく。長いこと見てきたからな、ある方が自然だ』

 あ。

 そういえば、僕ってハーンさんにそっくりなんだっけ。で、あの人は完全に男性型だ。肖像画も、確かに美人だけど、女性には見えなかった。

『まぁ、気にするな。ちなみに、ここは撫でられると気持ちが良いぞ?』

 半分以上からかい口調で、ルフィルはそう言うと、ざらりとした猫特有の舌でそこを舐めあげた。撫でるじゃなくて、それは、舐めるっていうんだよ、ルフィル。

 そうして喉を舐めたのが皮切りになったらしく。しゅるしゅるっと現れた全部で六本の触手が、僕の服を器用に肌蹴はじめた。喉を舐められたのが予想外に気持ちよくて、身体に力が入っていなかった僕は、まさに隙をつかれた感じでやられ放題の状態。

「ちょっと、ルフィル?」

『気をやるほどはしない。隠れ身の結界を張ってくれるか?』

「うちに帰るまで待てないの?」

『待てない』

 もう。

 付き合いが長くなればなるほど、僕に執着を見せるルフィルに、僕は呆れて見せるけれど。

 そうそういつまでも抵抗できるほど、僕だって枯れてるわけじゃない。ルフィルに組み敷かれて身体を撫でられて、僕だってギリギリに煽られてるんだから。

 なので、僕は右手を空に向け、上空に円を描いた。僕たちの周りに、円形の結界を張り巡らせる。外からは中が見えないマジックミラーのような結界。

 ちなみに、これは僕のオリジナルだ。ルフィルってば、こうして二人でくつろげる場所だったら、どこでだって盛るもんだから。さすがにルフィルに抱かれる自分は他の人には見られたくないから、何とかその場で隠れる方法を考えたんだよ。

『日々可愛く成長していくお前が悪いんだと思うぞ、ハンペータ?』

「可愛くなんてないよ」

『謙遜するのも良いが、自分の容姿が一般市民の目から見て美人の類に分類されるものであることは、理解しておいてくれよ。ハンペータを守るためなら容赦はしないが、俺は本来人間を狩る気はないからな』

 何だか妙に真面目な口調で言われたその言葉に、僕は首を傾げるだけだ。鏡は毎日見ているけど、僕は別に美人ではないし。僕を性的な対象として見る相手なんて、ルフィルだけだと思うよ。

 それに。

「自分の身くらい、自分で守るよ。ルフィル以外には触られたくないもの」

『こことか、か?』

 真面目な話をしながらも、器用とはいえ六本の枝分かれもできない触手で、あっというまに僕の服を剥ぎ取ってしまったルフィルが、そのすべすべな肌触りの触手を僕の下腹部に伸ばす。するりと巻きついた触手に搾り取られるように締められて、背筋をぞくりとした快感が走りぬけた。

「はぁ……っ」

 感じてるときって、どうして普通に息が出来ないんだろう。ため息みたいな声が出ちゃう。

 そんな僕の様子に、ルフィルは嬉しそうに笑っていたから、まぁ、良いんだけれど。ルフィルさえ喜んでくれるなら、僕は何も恥ずかしくなんてない。

 骨格も筋肉も女性的な身体のくせに、まったく膨らむ様子のない胸をすべって、二本の触手が二つの乳首に触れる。先っぽを先っぽでくすぐられるだけで、めちゃくちゃ感じちゃうのは、そこが僕の性感帯だからなんだろう。

 そうやって三ヵ所弄られるだけでも、頭の中が真っ白になりそうに気持ち良いのに、まだ空いてる触手があと三本。その三本は、全部股間に向かっていった。

 僕の股間は少し複雑だ。男性器の後に女性器もついてる。ひだひだになってる入り口を掻き分けて入り込んでくるのがわかって、僕は頬を赤らめた。

 だって、すでにもうそこはぬるぬるになってたんだ。少しも引きつりなく、簡単に中までもぐりこんできて、中から押し広げられる感覚に充足感を感じる。

 一度奥までもぐりこんできた触手が、すぐに抜き取られる。そして、見てごらん、とでも言うように僕の目の前に伸ばされた。

『もうこんなになってるぞ』

「ルフィルが弄るからでしょ?」

『ハンペータがされたがっているからだろ』

 僕の精一杯の反論を笑い飛ばして、ルフィルはそんな風に言ってのけると、また僕の中に触手を押し込んだ。後ろと違って痛みが無いから、純粋に気持ちいい。身体の機能ってすごいなぁ、って思うんだ。自分が男だって主張したところで、そこに女性である証があって、まともに機能しちゃってるんだもの。

 ちなみに、後ろだと少し痛むのを知ってるのは、もちろん目の前の彼氏に教えられたせい。

 といっても、入り口のところはあまり大きく広げないでくれるから、純粋に男同士でするよりは全然痛くないんだろうけど。ハーンって、ルフィルを愛してたんだろうなぁ。受け入れられたんだから。

 入り口のところはちょっと通る程度でも、中で太く膨らんだ触手で、ルフィルは僕の後ろのイイ所も擦りあげてくる。そういえば、女性にはあるのかなぁ? 前立腺って。

 実を言うと、一番気持ち良いのが前立腺マッサージ。ルフィルに彼自身で子宮の入り口まで突き上げられるのも、それはそれでとても気持ちが良くて、あられもない声が出たりするけど。でも、なぜか後ろのほうが気持ち良い。不思議なものだ。

『ハンペータ? 何か考え事か?』

 すっと僕の目の前にやってきたルフィルの顔が、僕を心配そうに見下ろす。その彼の首に、僕は両手を伸ばした。やわらかくすべすべした毛並みに指を通す。その手触りも、快感を刺激する一点になる。今の僕は、全身が性感帯になったようだ。

 僕がルフィルにしがみついたことで、気を良くしたらしく。後ろにもぐりこんでいた触手が一番イイところを強く撫でた。その強い刺激に、僕の身体は自然に快楽を露わにする。目蓋が落ちて、背がえび反りのように反り返り、喉は快感の声を絞り出す。

 まるで、蝶の羽化を見るようだ。

 そんな風に、ルフィルは目を細めて僕の耳に囁いた。




 気がつくと、太陽は地平線のかなたに沈みかけていて、僕はルフィルに守られるように花畑に寝転んでいた。

 脱がされていた服はきちんと着ているから、ルフィルがしてくれたんだと思う。

『気がついたか?』

 僕が身動きしたことで、目を覚ましたのを悟ったのだろう。長い尻尾を僕の腰に巻きつけて抱き寄せられる。

 そんな彼に、こんな時間まで寝こけてしまった恥ずかしさも手伝って、僕は拗ねてみせる。

「気絶するまではしないって、言わなかった?」

『すまん。調子に乗りすぎた』

 ペトン、と耳が伏せられて、本当に反省している表情で。僕は結局、拗ねきれなかった。だって、その仕草がとても可愛く見えちゃって。

 どんなに大きくても、どんなに強くても、ルフィルは結局、猫科なんだよね。思わずほだされちゃう。

「しょうがないなぁ」

 ため息と同時にそんな風に言ったのは、別に本気で呆れたわけじゃなくて、単なるポーズに過ぎなくて。

 ルフィルの身体を支えにして起き上がって、そこに置かれたままだった籠を手に取り。

「帰ろう?ルフィル。みんなが心配してるよ」

『あぁ。そうだな』

 ここから家に辿り着くまでに、太陽はまだ沈みきらないくらいの距離。僕はルフィルの背中に強制的に座らされて、家路に着いた。

 春の夕方の優しい風が、僕のちょっと長く伸びてきた髪を煽って、通り過ぎていった。





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