緑の園のクリスマス
朝起きて、庭に出て。
僕はそこに立ちすくんだ。
一ヶ月ほど前から降り始めた雪は、辺りを一面の雪景色に変えていて、周囲の木々は白く色を失っていたのに、僕の目の前に立てられた木は青々とした緑の葉を茂らせていた。
その木に仲間たちが集まって、リボンやらプレゼント袋やら星を模った飾りものやらを、枝に結び付けていたのだ。
僕がこの世界にやってきたのが、こっちでは四月だったから、それから数えて今は十二月。
僕にはどう見てもクリスマスツリーにしか見えなかった。
僕と一緒に寝起きしているルフィルが隣にやってくるから、僕は彼に訊ねてみることにした。
「みんな、何やってるの?」
『年越しの準備だ。ヴァンフェスには、年末にツリーを飾り、年が明けると同時に切り倒すっていう風習があってな。年越しまで後十五日。そろそろ作る頃だろう』
せっかく飾るのに切り倒しちゃうなんて、もったいないと思うんだけど。何か意味があるんだろうな。
『街に出れば、もっと大きなツリーが出来てると思うぞ。厄払いのための物なのに、願いを書いた短冊を飾るあたり、人間らしいと思うがな』
「厄払いなんだ」
『そうだ。自らの厄を飾り物に移して木に飾り、年明けと共に切り倒すことで、今年の厄を来年に持っていかないように、という意味を持つのさ』
今年の厄かぁ。今年はまぁ、いろいろ大変だったけど、良い年だったからなぁ。厄払いと一緒に切り捨てられちゃうのは嫌だなぁ。
『ハンペータも一緒に飾ってきたらどうだ? 楽しかったことだけ、来年に持っていけば良い』
「ルフィルは?」
『俺は、後で良い』
「じゃあ、僕も後で良いや」
クリスマスに似ているあたり、おもしろい行事だと思うけど。実際のところ、払いたい厄もないしね。
なんて思っていたんだけれど。
最初に僕を見つけたのはモーリーだった。昨日までなかったはずのこの木を運んでこられるのは、熊種のモーリーかドラゴンのディグダだけだし、このはしゃぎようは、モーリーの方かな?
『ハンペータ、おはよぉ。一緒に飾りつけしよーよぅ』
突進の勢いでやってくるモーリーに手を引かれ、僕に拒否する余裕などまるでなく。
『行っておいで』
『なぁに言ってんの。ルフィルもよ』
モーリーの肩にひょっこり乗っていたノーラに叱られて、ルフィルは肩をすくめ、抵抗する様子もなく歩き出す。ウサギに叱られる黒豹なんて、うちのルフィルくらいだろう。本当に種族を超えて仲が良い。
「理想的な家族だよなぁ」
『やぁだ、ハンペータ。今更何言ってんのよぉ』
ノーラにきゃっきゃっと笑われて。
この平和がいつまでも続くと良いな、って、改めて思ったんだ。
来年も、良い年でありますように。
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