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 神話の世界と未来の世界の融合は、ものすごい違和感があった。

「神……」

 シィンの呟く声に、僕は何故か沸々と湧き上がる怒りを覚えていた。こんな美的センスの欠片も無い輩に、僕は命を狙われているのかと思うと、恐怖よりもまず腹立たしい。

 あんな発想力の貧困さは、中学生以下だよ。僕だってセンスが良いとは口が裂けても言わないけど、ここまで酷くない。

「あれが、神様? 冗談でしょ。あんなのを神様だなんて呼んだら、本物の天地創造の神々に対して失礼だよ」

「ハ、ハンペータ様?」

 僕にしては珍しい、っていうか、シィンには想像も出来なかったらしい悪態に、シィンが驚いてしまっていた。ついでに、僕の足元にいるルフィルもね。僕を見上げて目を丸くしていたよ。

 別に猫を被っていたつもりはないんだけどなぁ。

 僕の声が聞こえていたとも思えないけれど、僕たちの姿を見つけたらしく、半透明の神を乗せたグリフォンが、こっちに向かって動き出した。その上に乗った神の手が、何か槍のようなものを生み出しているのが見えて、僕もまた両手を頭上に上げる。

 僕はハーンほどお人よしじゃないからね。反撃に、容赦はしないんだ。

「誰か、弓持ってないですか?」

 この距離じゃ届かないのは重々承知の上。けどね、射程距離まで近づいてくるはずなんだ、あの勢いなら。

 僕たちの背後で、衛兵さんたちが大慌てで動き回っている気配がして、用意してもらえるだろうと期待する。

 そうしている間にも神の手によって作られた槍はその手に握られて。

 振りかぶり、投げつけられる。

 同時に、僕は上げた両手を下ろした。

「壁っ」

 ハーンに資料越しに教わった僕の魔法は、すべて僕の想像力が基本。だから、本当は言葉も要らないのだけれど。声に出して言った方が、精度が高い。

 僕の言葉に従って、僕の手がなぞった通りに、分厚い風の壁が出来上がり、飛んできた槍を跳ね返した。足元に落ちたその槍は、金属のようなプラスチックのような、不思議な物体だった。ただし、空気のような神とは違う、僕の手にちゃんと握れる物質の塊ではあった。

 それはずっしりと重く、先端が尖っている、まさしく『槍』。

「弓をお持ちしましたっ」

 背後から声をかけられて、僕はそちらを振り返る。どう見ても班長クラスの偉そうな衛兵さんが、腰を九十度に曲げてそれを捧げ持っていた。そんなに敬われる人間じゃないけどね、僕自身は。そのことについて言及するのは、今はその時ではないから後にしておこう。

「ありがとう」

『何をする気だ? ハンペータ』

「ん? ……ふふ。まぁ、見ててよ」

 爪弾いた弦が、ビン、と音を立てる。そんなに硬くも無い弦だから、僕でも引けるはずだ。

 矢は、この槍。和弓ではないけれど、同じ要領で矢をつがえ、弦を引く。槍の長さだから弓を引いても鏃までの距離は相当あった。

「炎よ」

 普段はその場所で指を鳴らすのだけれど、両手は塞がっているから、言葉を囁く。先端に灯った小さな炎に、背後からどよめきが聞こえた。

 前方を見れば、神が二本目の槍を生み出している所だった。

 距離は少し遠いけれど。理系の頭脳にこの距離を補う知恵ならいくらでもあるんだ。

 神を狙った槍を、やや上へ向け。

「壁消しますから、下がって」

 今にも槍を投げる姿勢をとっているのは見える。だから、やるなら今だった。

 シィンが壁の向こうに行くのを待って風の壁を消し、矢を放つ。そして、矢の行方を見送る間もなくその場にしゃがみ込んだ。

 神の放った槍は、僕の頭上すれすれを飛びぬけ、背後のガラス戸を割って吹き抜けの謁見の間に飛び込むと、正面にかけられていた初代国王の肖像の頭に突き刺さった。

 神の槍が誰にも当たらなかったことを見届けて、テラスの手すりから顔を出し、神の姿を探す。そこに見えたのは、神を振り落として地上に落下していくグリフォンの姿だった。

 退避していた壁からシィンが顔を出し、丁度土煙を上げて地上に落ちたグリフォンを見た。

「……やった、のですか?」

「多分。あの高さから無防備に落ちたら助からないでしょ」

 計算どおり放物線を描いた槍は、狙い通りに神とグリフォンを貫いたのだろう。でなければ、いきなり落ちることはないだろうから。

 僕が使った弓を返してシィンの側に戻ると、ようやく正気を取り戻したのか、シィンが急に立ち上がった。

「衛兵! 確認を急げ!!」

「ははっ」

 軍靴の音も高らかに大慌てで立ち去っていく彼らを見送って、僕の足元にいたルフィルが喉をくくっと鳴らした。

『ハンペータ、お手柄だな』

「役に立って良かったよ」

 小柄で、半陰陽のせいか筋肉の付きにくい身体をしていたから、何度も武道をやめようかと悩んだけれど。趣味だからと割り切って続けた甲斐があったというものだ。





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