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 結局、何も起こらないまま五日は過ぎた。

 混合種の群れの内、以前ハーンと親交のあった群れの八割は僕の提案を受け入れてくれて、残り二割とハーンの時代にまだこの辺りにいなかった新種の混合種の群れとは、結局和解に至ることができなかった。

 でも、僕の年齢と状況を考えると、上出来だと思う。

 何でも、シィンが神々への返答をギリギリまで引っ張って、昨日ようやく返事を出したのだそうで、向こうからの侵攻があるのなら今日以降のことなのだとか。シィンには心から感謝だ。

 結界点の調査結果は、五日を待たされた割には大した量はなく、それぞれのチーム毎に調査した結果を書き記したメモをまとめて一つに綴じた、といった体裁だったから、まずはそこから僕が使えるように表にまとめるところから手をつけることになった。

 まったく、こんな程度のことに五日もかけるとは、とルフィルがご立腹だ。

 元の世界から持ってきていたノートに枠を書き加え、ちょっとした計算やメモは黒板に書いては消し、そうしてまとめた表は、結局三ページに及んだ。B罫で空白行無しにびっちり詰めて三ページってことは、だいぶ量があるってことだ。

 表にまとめた後、この国と周辺の森林の地図に結界点を書き写してみた。それと、混合種の群れを渡り歩いていた間に僕たちで見つけた点も書き加え、不足している部分も推測で置いてみれば、だいぶ円に近い多角形が出来上がった。

 その円が、どこにも湾曲の無い真円であることに、僕は改めてびっくりした。

 これ、もしかして、結界点を描く為にわざわざ森を歩いたんじゃなくて、中心点となるこの王宮から遠隔的に何らかの方法で飛ばして作ったんじゃないのかな。高低差もあるこの森を、真円を描いて歩くなんて、僕には信じられない。

 後残った課題としては、僕の想定結界点の真偽を確認することなんだけど、これからそこに当たる場所に確認に出かけるのも時間がもったいないし、どうしようかな、と腕を組んだ。

 腕を組んでいたら、ちょうどその瞬間、開いていた扉から留守番していたはずのドリスが飛び込んできた。

 場所は例によって、ハーンの肖像画が飾られている会議室で、シィンもそばにいて僕の行動を手伝ってくれていた。ドリスが突然飛び込んでくるから、びっくりしている。

 王宮に来ていたのは、僕とルフィルとナーダだけで、あとの皆には家を守ってもらっているはずなんだけれど。

『ハンペータ。ノーラが神々の軍勢がこっちに向かっている音をキャッチした。森は何とか守りきるが、急いでくれって、ディグダから伝言』

「うん、わかった。伝令ありがとう」

 僕の返事を最後まで聞かず、ドリスは再び翼を広げて、僕の「ありがとう」の言葉が終わると同時に部屋を飛び出した。その慌てぶりは、きっと片想いの相手を守りたい一心なんだろう。こんなに日の高い日中、メリィアンが戦力になれるとは思えないものね。

 僕は、ドリスを見送ると、シィンに視線を向けた。

「シィン。神々の軍勢が来たと報告がありました」

「それは大変だ。国境警備を強化させましょう」

 人の名前を呼びながら部屋を出て行くシィンを見送って、僕は再び腕を組む。

 この場所も広いし静かだから不便は無いのだけれど、森にある家と違って魔力的な磁場が薄く、まだまだ力が不安定な僕にとっては不安のある場所だ。ましてや、まだ見つかっていない結界点をここから探すなんて、不可能に近い。相変わらず、僕には弱ってしまっている現在の結界をこの場所から感じ取ることが出来ないんだ。

 せめて、魔法を使うための整備を施してある場所。

 そう、僕が初めてこの世界に来たあの部屋とか。使わせてもらえないかな。

 出て行ったシィンが戻ってくるのを待って、聞いてみる。と、シィンは何度も頷いた。

「あの部屋は、磁場の不安定なこのバル王国のちょうど中心に当たり、複雑な相互作用によって生み出された唯一の清浄域です。そのため、国事に当たる重要な儀式に使われます。その多くが、魔法を伴うもの。国を守るための大事な作業において、これほど適した場所は無いといって良いでしょう。この非常事態です。魔術師たちにも否やは言わせません」

 さぁ、参りましょう、と先に立って歩き出し、僕を促すように扉を開けてくれるシィンに、僕は慌ててそこらに散らかした資料の類をかき集め、駆け寄った。





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