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 翌日。ナーダの背中に乗せられて出かけたその場所は、家からそう遠く離れていない、森の中にあるちょっとした広場だった。何本かの倒木が乱雑に並び、そこに大虎が何十匹も集まっていた。

 野生の群れとしては、巨大と見ていいだろう。けれど、この周辺にいる大虎のすべてがここに集まっているのだと言われれば、少ないようにも感じてしまう。

 僕とナーダ、ディグダ、ルフィル、それにライアンの一行は、広場の中央に通されて、一匹の大虎に向き合った。ライアンが紹介するところによると、その大虎が群れのリーダーであり、ライアンの母だそうだ。

『父さんは元気にしているの? 近頃まったく顔を見せてくれなくて、寂しいわ』

『うん。歳の割りに元気だよ。ただ、足腰が弱ってて、遠出はしたくないって』

 実際は、最長老の威厳で説き伏せるようなことはしたくない、と言って来なかったんだけれどね。ライアンもそんな事情は口に出さないあたり、大人だと思う。普段は僕より子供っぽいくせに。

 それで?と、本題を促す彼女に、事情を説明しようとしたライアンを、僕はそのすぐ隣に跪き、抱きつくことで押し留めた。

『けど、ハンペータ……』

「大丈夫。僕に、説明させて」

 これは、僕のことだから。もちろん、相手はライアンの母親なのだから、彼に任せるべきなのかもしれないけれどね。任せっぱなしじゃいられないんだ。

 子供のわがまま、かなぁ。

『あなたが、ハーンの生まれ変わりね。どんな大人物かと思えば、まだ子供じゃないの』

「えぇ。子供です。はじめまして、ハンペータといいます。今日は、お願いがあってまいりました」

『私たちに、あなたを守れと言うのでしょう?』

 僕がライアンに連れられて来た時点で、用件は把握していたみたいだね。そして、それを気に入らないことも、彼女の口調からわかるんだ。

 だからといって、怯むわけにはいかなくて。

 僕は、首を振って否定して見せた。これからが、駆け引きの腕の見せ所。僕がどこまでできるかはわからないけど。やるしかない。

「いいえ。ただ一方的なお願いに来たわけではありません。協力していただきたく、ご説明に伺いました」

『協力? それはつまり、見返りがあるというの?』

「はい。あなた方の身の安全を」

 僕が差し出せるのはただそれだけ。

 その僕の言葉に、彼女は一瞬驚いて、それから鼻で笑い飛ばした。

『大きく出たね。つまり、その力があなたにあると、そう言うのね?』

「ご協力いただけなくても、この森を含む辺り一帯を囲む結界を作るという僕の仕事に変わりはありません。それに、できるかどうか、僕には断言できません。けれど、もし僕に僕の前世だというハーンが持っていた力があるのであれば、可能だと信じています。ただし、それには僕自身が結界術に専念する時間が必要なんです。それも、事情があって、今すぐに取り掛かれるわけでもない。だから、僕がその結界を完成させるまでの時間稼ぎを、お願いしたいんです」

『時間稼ぎ?』

「はい」

 その言葉が、よっぽど意外だったのだろう。不思議そうに問い返してくるから、僕ははっきりと頷いて返した。

 そう。時間稼ぎで良いんだ。

 ハーンが街を囲むようにして作ったその結界は、混合種を阻むもので、空からは完全にシャットアウトしてしまうし、陸から侵入は出来るけれどゆっくりくぐらないと弾き返されてしまう薄い膜が行く手を阻む。結界ができてしまえば、後は何とでもなるっていうことだ。結界上に感知システムをつけて、無理やり通ろうとすれば検知出来るようにしておけば、対策もたやすい。

 この結界の欠点は、敵味方問わず混合種を阻んでしまうという点だけれど、これに関してはハーンと彼らの間に合意はされていたみたいだし。





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