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夕方。
家に帰って皆に報告すると、メリィアンが深いため息をついた。
『五日待つのは良いけれどね。その間に神々からの侵攻があったらどうするつもりだい?』
『あの場ではそう答えるしかなかったのだ、仕方が無いだろう。なぁ? ハンペータ』
ディグダに同意を求められて、僕も頷いて返した。他に方法がなかったんだ。しょうがない。
けれど、メリィアンの危惧もその通りなんだ。
神々の狙いは僕なんだから、結界が間に合わなくて危険なのは、王宮でも街でもなくてこの家なんだよ。そして、僕自身の命なんだ。
王宮の外に出て改めて感覚を街の外を覆っているという結界に向けてみて、僕もようやくその弱々しくなった結界を見つけることが出来た。王宮を守っている結界が強くて、波動が感知できなかったんだ。もう、ちょっと押しただけでも簡単に破れそうなくらい、ボロボロだった。
だから、今ある結界を一度壊して、その基礎の上に新しく結界を張るのが一番良い方法なのはよくわかる。新しく張るよりもその方が早いし安全だ。
だからこそ、今わかっている結界点があるのなら、その情報に頼らざるを得ないわけで。
『その時は俺たちがハンペータを守れば良いことだ、メリィアン。そんなにいきり立つな』
『そうは言ってもねぇ? ワタシたちだけでどこまで対抗できると思ってるんだい。ハンペータはまだ森の獣たちに認められているわけじゃないのだから、味方はワタシたちだけなんだよ? たった十二匹、しかも半分は非戦闘要員で、神々の軍勢に対抗できるわけが無いじゃないのさ。その上、結界を張るのはハンペータなんだからハンペータが地下に隠れてるわけにもいかない。こんな危ない状況、ハーンの頃だってなかったわよ』
『そのハーンが、神々に狙われたのが、元はといえば原因なんだ。ハーンの頃より状況が厳しくなるのは当然のことだぜ。あと五日は何も出来ないのなら、味方を増やす方に力を費やすべきだろう?』
『森の群れに、ハンペータを会わせるの?』
結論をまとめた上で、ちょっと不安そうに首を傾げたのは、ノーラだった。その言葉に、僕も少し不安になる。
もちろん、単独種とも混合種とも話はできるよ。でも、僕はハーンじゃないし、ハーンほど根気良く話をする時間も無く、しかも長老を説き伏せられるほどの話術も持ち合わせていない、ただの十四歳の子供なんだ。その僕の味方になんて、なってくれるんだろうか。すごく不安。
その不安そうなノーラに、言いだしっぺのドンファンは当然のごとく頷いた。
『俺たちがついてるんだ、ハンペータには指一本触れさせるつもりは無い。味方になるかどうかは向こうが決めることだ。ただ、協力を要請してみる努力は価値があるだろう?』
『まぁ、何もしないよりはマシだろうね』
厳しい状況には違いない。けれど、だからこそ、まったく何も動かないわけにはいかないのも事実だ。ならば、動くしかないんだから。
渋々、と言った感じでドリスがドンファンに賛同すると、他の皆もやっぱり気乗りしないながらも反対はしなかった。
混合種たちの言葉が通じないレイリーとライアン、それにナーダは、ディグダに通訳をしてもらっていたみたいで、混合種たちの話がまとまったところで、レイリーがのっそりと身体を起こした。
『まず手始めに、単独種を動かすのじゃな。今、大虎の群れのリーダーはワシの娘じゃ。話を聞いてくれる』
単独種の言葉が通じない分は、反対にまたディグダが通訳してくれる。レイリーは、どうだ、というように僕に視線を向けた。それって、最終的な判断は僕に委ねる、ってことかな。
「それって、ライアンのお母さんだったりする?」
『するよ。俺の母さんだ。俺がちゃんと説明するから任せてよ』
子供っぽい口調のくせに大人ぶって胸を張るから、僕はちょっと笑ってしまうのだけど。何より頼りが他にないから、素直にお願いすることにした。僕なんかが初めて行って話をするより、息子の話の方が聞いてくれるよね。きっと。
『問題は、混合種か』
『群れの数が多い上に、横の繋がりも無いものねぇ。これから大変よ、ハンペータ』
わかってるから、あんまりプレッシャーかけないでよぉ。
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[mokuji]
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