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 シィンが自ら淹れてくれた香りの良いお茶を楽しんでいると、しばらくして、魔術師集団のリーダーの人が血相を変えて部屋に現れた。国王の至急のお呼び出しだったから、大変な事態を想像したのだろう。

 まぁ、ある意味大変な事態なんだけどさ。

「お呼びでございますか、国王陛下」

 その人は、見事な長く白いひげの老人だった。僕の想像にまったく違うことなく、灰色のローブを身に纏っている。あまりにも型に嵌り過ぎていて、あまり面白みが無い。

 その人は、僕を見た途端に、とても驚いた表情になった。

「だ、大賢者様?」

「……の、生まれ変わりの方だ。ハンペータ様とおおせられる。くれぐれも失礼の無いよう」

 訂正をいれたのが国務大臣であることに、僕はとてもほっとした気持ちになった。シィンだけじゃなく、国務大臣も僕の立場をハーンの身代わり以外の位置に置いてくれたことに他ならなかったから。

 この二人が認めるのだから、公式の場での僕の立場は、大賢者様の身代わり、とは違うことになるんだろう。まぁ、だからといって、だったらどんな扱いになるのかは、僕には良くわからないけれど。

「大賢者様がお作りになった外郭の守護結界の結界点は把握できているか?」

 突然のその質問に、一瞬何を言われたのかわからなかったらしくて呆けた表情になった魔術師さんは、それから視線を左斜め上に向けた。えー、とも、うー、ともつかない呻り声。

 しばらくして、視線を国務大臣に戻す。

「いくつかは把握されておりますが、これですべてかどうかはわかりかねますな」

「全部でいくつあるかもわからぬのか」

「はい」

 自信満々に頷く彼に、シィンと国務大臣が揃って肩を落とす。ディグダも隣で苦笑した。

『それは自慢できる回答ではなかろう』

 人間には伝わらないとわかっているから、ルフィルが遠慮なくそう言う。それを聞いて、皆が落胆した意味がわかった僕って、トロいよね。

「今わかっている分だけ、教えてもらうことって出来ますか?」

「はぁ。ですが、まだ資料としてまとめられておりませんで、先ごろ組んだ調査チーム毎に担当範囲内で把握しているような状況ですから、そう簡単にはお伝えできかねますな」

「……まとめてもらうのに、時間かかりますか?」

「五日ほどいただければ」

 そんなに!?

 一体、ハーンはその結界を作るのにどれだけの結界点を作ったんだろう。今わかっている分をまとめるだけでもそんなにかかるんじゃ、始めから作り直したらすごい時間がかかりそうだ。

 その日数には、シィンも予想外だったらしく、頭が痛そうにこめかみを押さえた。国務大臣に至っては、深く荒い息を吐き出し、握ったこぶしを震わせている。怒鳴りだしそうなのを押さえ込んでいる様子。

 困ってしまって僕はディグダに視線を向ける。それを受けて、ディグダも肩をすくめて返してきた。

「五日待ちましょう。ハンペータが街の周りを巡って結界点を新しく作るとなると、大事になります。街の連中の反応が恐い。それならば、今ある分を活用する方法を選択する方が難点が少なくて済みますよ」

「そうだね」

 そう、答えるしかなかった。そのディグダの結論に、シィンは申し訳なさそうに頭を下げた。





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