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 久しぶりに気絶するように眠って、気がついたら太陽は頂点に昇っていた。っていうか、もしかしたら、気絶させられたのかもしれないけど。

 久しぶりに、頭がすっきりした。

 部屋を出てみれば、リビングではノーラがいつものように掃除をしていた。

『あら、ハンペータ。おはよう。腰は大丈夫? ルフィルが無茶したんでしょ?』

 かまぼこみたいな目で僕を見るノーラに、僕は恥ずかしがるより先に、激しく脱力してしまった。

「ノーラ、それ、近所の噂好きのオバちゃんみたいだよ」

『あ〜ら。もうオバちゃんの歳よ、あたし』

 ほほほ〜、なんて、ふざけたお上品さで笑って見せるから、僕も笑うしかなくて。ウサギらしいジャンプ力でピョンピョンと跳ねて僕の足元にやってきたノーラが、僕をじっと見上げて、今度は優しく笑った。

『元気になったみたいね。お腹空いてるんじゃないの? ディグダが、ハンペータがいつ起きて来ても良いようにって、ご飯作ってたけど、食べられる?』

「うん。食べるよ」

『そう。じゃあ、ディグダを呼んでくるわね。顔、洗ってらっしゃいな』

 ぽんぽん、と小さな手で僕の足を叩き、玄関の方へ跳ねて行ってしまう。彼女を見送って、僕は言われたとおり顔を洗うために洗面所に向かった。

 昨夜は、一瞬だけ痛かったけれど、それ以外はものすごく蕩けるくらいに気持ち良くて、恥ずかしい声をいっぱい上げてしまった。きっと、皆に聞かれちゃったと思うから、恥ずかしくって仕方が無いんだけど、ノーラは嫌そうな顔どころかからかってきたしね。良かったのかも、って思う。

 洗面所から戻ったら、ディグダがかまどの前にいて、鍋の中身をかき混ぜていた。僕の姿を見て、顔色が昨日より良いことに、ほっとした様子で。

『良かった。元気そうですね。たくさん食べてくださいね』

 しっかり者のディグダに優しくされると、それだけで気持ちがほっとするのは、僕がまだ子供だからなのかな。




 皆が例によって庭に集まってくる人間たちを追い払っている間、僕はハーンの部屋にこもって資料をひっくり返していた。

 片付けていたときに、見た気がしたんだ。隠れるのにうってつけの、結界の張り方。

 僕は僕で良いんだって、蕩ける快感と一緒に言い聞かせられたおかげで、ちょっとだけ考え方を変えられたんだ。僕は僕のやり方で、僕に出来ることをしよう、って。

 そのためには、まず僕に出来ることを増やさなくちゃいけない。少なくとも、このハーンが残してくれた資料を見ながら、魔法がかけられるくらいに。だから、まずは勉強しよう。そう、決めたんだ。

 勉強する時間が、僕にはまず、必要だった。その時間を作る手段として思いついたのが、押しかけてくる人間たちから身を隠す結界の張り方だったわけ。

 見つけた資料は紙切れ一枚だったけれど。そこには、結界の陣の書き方と、必要な呪文と、念じるためのコツが書かれていた。後は、やってみるしかない。

 僕は、夕飯の準備でディグダを手伝う時間まで、ずっとその一枚に集中した。こんなに集中して勉強したのは、もしかしたら初めてかもしれなかった。





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