30
『……なるほど、こういうことか』
そういうことだよ。
僕は、純粋な男じゃないんだ。
医師に診断されたその名前は、なんだか長ったらしかったけど、とにかく半陰陽。両性具有とかふたなりとかとも言うらしい。つまり、男でも女でもないっていうことであり、男でも女でもあるっていうことなんだ。
確かに珍しいことだけれど、まったくあり得ない話ではなくて、病院では『半陰陽です』っていえば、なるほどって軽く納得される。僕は観たことが無いけれど、アダルトアニメなんかでは、多いらしい。そういう生物。
ただ、世間一般での認知度が低くて、実際染色体異常の人でも、一生気付かずに過ごすケースもあるらしいんだ。だから、誰にも知られたくなかった。珍しい生物として周りで騒ぎ立てるのは目に見えていたから。
僕の場合は、乳房はほとんど無いかわりに、男性器も女性器も付いていて、検査の結果では精巣と卵巣が一つずつついているそうだ。もちろん、子宮も。子供は産めないだろうって言われたけど。
ほほう、と興味深げに僕の秘所をじっくり眺めるルフィルに、彼の反応が恐くて、僕はそっぽを向いていたけれど。その場所をねっとりとした温かいものが触れて、僕はビックリした。見下ろせば、ルフィルがそこを舐めていた。
「ちょ、ちょっと、ルフィル!?」
『キレイだな。世の中には、こんなキレイな身体を持った人間もいるのか』
毛繕いのできる大きな舌で舐め上げられて、僕の背筋を電流のようなものが走る。思わず足を閉じたら、ルフィルの頭を挟んでしまって。ルフィルが、嬉しそうにくっくっと笑った。
『気持ち良いのか? ココが、反応しているぞ』
ぷよぷよの猫の肉球で、僕の男性器の方を突っつくから、それがすごく気持ちよくて、ため息が漏れた。
『ハンペータ。まだ恐いか?』
……うぅん。
恐くないよ。
首を振る。ただそれだけ。でも、その返事で、ルフィルには通じたみたいで。
僕をゆっくりベッドに押し倒して、さっきと同じようにチュニックを押し上げるルフィルに、僕は抵抗する意思をなくした。彼が、とても幸せそうだったから。
まぁ、初体験だし、ちょっと恐かったけど。ルフィルが相手だから。平気だと思う。
『ハンペータが勇気を出して教えてくれたからな。俺も教えなければフェアじゃないだろう』
「……ん?」
何か、隠し事?
ルフィルに身を任せていた僕は、ちょっと恥ずかしくて余所見をしていた視線を彼に向けた。
月明かりの中、ルフィルの黒光りする美しい毛並みの間に混じって、ふよふよと蠢く、クラゲの手か蛇かそんな感じの長細い物体が見えた。半透明で、肌色と黄色を混ぜたような微妙な色合いで、うーん、上手く表現できないけど。
「それ、何?」
『俺の、身体の一部だ。今までは隠していたがな』
五、六本あった内の一本が、僕の目の前まで延びてきて、頬を撫でる。見た目ほどドロドロした感じはなくて、むしろすべすべで気持ちが良い。まるで、柔らかい琥珀のよう。
『混合種のすべてが持っている、混ぜ合わされた異界の生物の一部だそうだ。なかなか器用だからな、俺たちは触手と呼んでいる。が、皆、この姿を嫌っているのさ。おぞましい姿だと、俺も思う。だから、いつもは隠しているんだ』
「それを、見せてくれるの?」
『ハンペータが見せてくれた礼だ。それに、コイツを使った方が、ハンペータを気持ち良くしてやれる。猫の手じゃ限界があるからな』
しゅるしゅると動いたそれが、はだけた胸に、下腹部に、伸びてくる。そのくすぐられる感触が、くすぐったさではなくて、快感を呼んでくれる。それに、ルフィルの体温と同じくらい温かいそれに触られると、そこが性感帯と呼ばれる場所じゃなくても、気持ち良かった。
『気持ち悪いだろう?』
「キレイだよ。琥珀みたい。温かいし、すべすべしてる。どうして嫌うの? ルフィルの一部なんでしょう?」
僕の頬を撫でていたその一本に指を絡める。そのすべすべの触り心地が癖になりそうで、手が離せない。
『ハーンみたいなことを言う。そんなものを宝石に例える奴は、ハンペータで二人目だ』
「ふふ。でも、僕、これで触ってくれるの、好きだな」
『そうか。じゃあ、こいつで泣かせてやろう』
「悲しいのも痛いのも嫌だよ?」
『その泣かせるじゃないぞ。まったく、ハンペータはまだ子供だな』
覚悟しろよ。そんな風に僕の耳に囁いて、そのまま口付けを受ける。絡みつく舌が気持ちよくて、僕はうっとりと目を閉じた。
[ 30/54 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]戻る