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 翌朝。

 いつもより早い時間に眠りについたせいか、いつもより早い時間に目が覚めた。

 家の中は静まり返り、外は昇りはじめた朝日に照らされて空が真っ赤に染まっていた。

 床で眠りについたそのままだったから、身体が少し固まってしまっている。

 着替えが無いから、昨日来たときの服装のまま、ルフィルを起こさないようにそうっと、部屋を出る。

 玄関先の宿り木にとまって、メリィアンが眠そうに舟をこいでいた。

「おはよう、メリィアン。そんなに揺れてたら、木から落ちちゃうよ。ちゃんと寝ておいでよ」

『おやおや、ハンペータ。早いね。もっとゆっくり眠っていて良かったんだよ? 疲れていなかったのかい』

「うぅん。いつもより眠るのが早かったから、目が覚めちゃってね」

 眠っている間に固まった身体をうんと伸ばしてほぐす。皆が起きてくる気配も無いし、メリィアンは大欠伸をして家に入っていった。この庭に、僕一人だけ。

 ストレッチをして筋肉を解し、身体が温まったところで、上着を脱いだ。半そでのTシャツはまだ少し寒いけれど、動いていれば気にならない程度。

 日々の鍛錬は、欠かせない。ただ、竹刀も木刀もないから、剣の鍛錬はできないし、仕方が無いので、空手の型に切り替えた。

 小学生の頃は、今も続けている剣道と弓道に加えて、空手も習っていたんだ。辞めたのは、三つは多すぎることと、筋肉の付き難いこの身体では続けていくのが辛かったせいだった。

 しばらくやっていなかった空手の型も、何度か繰り返すうちに思い出してきて、時間を忘れて汗を流す。

 幼い頃に教わっていた一通りを思い出しながらこなして、ふと顔を上げる。たくさんの視線を突然感じて、慌てて振り返ると、玄関先に仲間たちが揃っていて僕を眺めていた。

 っていうか、さっき眠りにいったメリィアン以外全員揃ってるんだけど。

「……や、やだな。声かけてくれれば良かったのに」

 結構うろ覚えになっていた部分も多くて、ああでも無いこうでも無いと呟きつつだったから、あれを見られていたと思うとすごく恥ずかしい。

 きっと真っ赤になってしまっていると思う。ほっぺが熱い。

『それは、ハンペータの世界の武術かい?』

 真っ先に近づいてきてそう問いかけたのは、ディグダだった。体格から想像出来るように、彼もまた、きっと何かしらの武術の心得があると思う。武道を長くやっていると、その瞬間、神経が研ぎ澄まされるんだ。昨日は気付かなかったけれど、彼の呼吸は僕の師匠たちの呼吸に良く似ている。

 汗だくの僕に手ぬぐいを差し出してくれるので、僕はそれを遠慮なく受け取った。

『汗がすごいな。着替えた方が良い』

「持ってきて無いんだよね。汗臭い? 後で、街に服を買いに行こうと思ってたんだけど」

『ならば、私の服を貸そう。背が開いているから綴じなければならないが』

「上着を着れば隠れるよ。ありがとう、遠慮なく借りる」

 この中で男性の人間体はディグダだけだから、僕は彼の言葉に甘えるしかない。礼を言ってにこっと笑えば、彼は僕の背に手を回して家に促した。

『湯浴みをしておいで。朝食にしよう』

 ディグダの言葉で、みんながわらわらと家の中に戻っていく。僕はその後を追いかけて、昨夜教えられた風呂場へ直行した。





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