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 紹介されたときにはいなかった虎のライアンも含めた十四人で囲む夕食はとても賑やかだった。

 肉食のみんなはハーンに合わせて雑食に転向したらしく、生の草しか食べられないナーダは別メニューだけれど、他の皆はディグダの手料理と僕が持ってきていた大山さんのお弁当を美味しそうに頬張っていた。

 野菜は僕の知らない野菜だったけれど、塩と胡椒の利いたその野菜炒めはとても美味しくて、幸せな気分になる。美味しい料理は人を幸せにするよね。

 夕食の後は、みんなで玄関先に出て、星を見上げた。焚き火を囲んで、まるでキャンプファイヤー。十一月の寒い所から来ていたから昼間は暖かく感じていたけれど、夜はさすがに冷え込んで、僕はルフィルに持たされたコートを肩にかけていた。

 お尻をペタンと地面につけて星を見上げる僕の隣には、当然のようにルフィルがいた。その体温が暖かくて、僕も自然に擦り寄ってしまう。

 見上げた星空は、僕が知っている星空のそのままだった。もっと南に位置しているのか、北に固定された北極星の位置は少し低い。

 そういえば、この場所の気候や地理を全然聞いていなかったなぁ、とようやく気付いた。星を見上げて気付くなんて、科学好きらしい。

 鳥目のドリスが一番に脱落したのを皮切りに、半分くらいが自分の寝床に戻って行き、僕の周りにはメリィアンとディグダ、ディグダと良い感じの雰囲気のルーシー、モーリーとトーレンだけが残っていた。ディグダとルーシーは二人の世界に入っているし、仲が良いらしいモーリーとトーレンは星空そっちのけでふざけあっている。

 ばさばさ、と音を立てて、メリィアンが僕の隣に舞い降りた。

『良い所だろう?』

「うん。静かだし、空気もキレイ」

 僕が暮らしていたのは都会のど真ん中で、きっとこの世界には無縁だろう、車の排気ガスで充満していたから、こんな降り注ぐような星空は見たことが無かった。両親も祖父も仕事で忙しくしていて、夜のお出かけに連れて行ってもらった覚えも無いし、唯一山深い所に行った記憶のある林間学校は曇り空で星どころじゃなかったんだ。

 これを、掴めそうな、って言うんだろうね。一つ一つの光はそんなに強くないのに、明るいと思うくらい。

『ハーンは街が苦手だったから、逃げるように森の中に家を作ったんだよ。最初はそんな理由だったのさ。けどね、みんな、すぐにこの場所を気に入った。深い森に守られて空気は澄み切っているし、近くには清流が流れ、空を見上げればこんなにも美しい星空が見える。森の収穫物も豊富で、食べるものにも困らないしね。最高の土地だよ』

「そうだね。本当に」

 都会に生まれ育ち、常に車の音が途切れることなく、晴れた日に空を見上げても見える星は一等星でギリギリ。畑も田んぼもずっと遠くにあって、食べるものはみんなお金を出さないと手に入らない。

 そんな世界で生きていた僕にとって、とても羨ましい環境だった。これはこれで不便はたくさんあるだろうけれど。食べるものに困らず心穏やかに過ごせるのだから、それ以外のことは二の次だよね。

 もちろん、何も知らない世界で、不安はたくさんあるけれど。気持ちが穏やかになる、そんな土地なんだ。

『さぁさ。今日は疲れただろう? ゆっくりお休み』

 大きな翼を広げて、ぽん、と背を叩かれて、僕は促されるままに立ち上がる。隣に寝そべっていたルフィルも身体を起こした。

「おやすみ、メリィアン」

『おやすみ、ハンペータ』

 夜行性の彼女と次に会うのは、明日の夕方だろうけれどね。





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