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 シィンに勧められるままにお茶を飲んでいると、会議室に衛兵さんの格好をした青年が恭しく礼をしつつ姿を現し、客を案内してきた。

 案内されたその客とは、熊だった。国を守る衛兵が何の疑いも抱かず王のいる部屋に案内してくるのだから、警戒する必要は無いのだろうけれど、思わず身構えてしまう。

 と、ちょっと間延びした感じの太い声が僕の頭に聞こえてきた。

『あぁ、ハーン。会いたかったよぉ』

 どすどすと四つ足で駆け寄ってくるのは大きな熊。でも、その声はすっかり甘えん坊の雰囲気だ。そして、僕の隣に跪き、僕の身体をぎゅうと抱きしめた。ちょっと痛い。

『うわぁ。まだ子供なんだねぇ、ハーン。可愛い〜』

 つまり、この熊もハーンの眷属というわけか。重い足音に気付いて目を覚ましたメリィアンが、大きな翼を片方広げ、べしん、と熊の頭を引っ叩く。ほとんど、図体ばっかりでっかくなったバカ息子を叱る母親の図。

『モーリー、お放し。ハンペータが潰れてしまうよ。あんたはホントに図体ばっかりでっかくて、まったく成長しないんだから。会えて嬉しいのはわかるけど、ハンペータが戸惑ってるじゃないか。それに、ハーンはもう死んだんだよ。彼は、ハーンじゃなくて、ハンペータ』

『でも、ハーンの生まれ変わりなんだろう? じゃあ、ハーンだよ』

 何とも単純明快な論法に、僕は否定するのも面倒になっていて、ただ苦笑するだけだった。

 熊のモーリーは、どうやら僕の荷物を運ぶためにわざわざ来てくれたらしく、迷うことなく旅行カバンに近づき、背中にひょいと背負った。ものすごく重いはずなのだが、いとも簡単に。

『これが、ハーンが持ってきた荷物? 重いねぇ。何が入ってるの? お土産は?』

「ごめん。お土産になりそうなのはないんだ。本ばっかりで」

『そっかぁ。残念。でも、ハーンは相変わらず勉強家だねぇ。手ぶらでも良かったのに。ねぇ? ルフィル』

 身体は大きいが人懐っこい性格らしいモーリーに同意を求められ、ルフィルは片目だけ開けてその相手を一瞥し、また目を閉じる。答える気が無いようだ。モーリーはモーリーで、ルフィルが答えてくれるとも思っていないのか、気にした様子は無い。

『さぁさ。みんながお待ちかねよ。帰りましょう』

 メリィアンがそう言って、モーリーが背負ったカバンの上に飛び上がると、ルフィルも寝そべる姿から起き上がり、僕を見上げた。言葉よりも先に、目が僕を促している。

「シィン。メリィアンが帰ろうと言うのですが、退席してもよろしいですか?」

「えぇ、もちろん。皆さんお待ちかねでしょう。今夜はゆっくりお休みください。後日、使いの者をやりますので、詳しいお話はその時に」

 王様自ら席を立ち、扉を開いてくれるなんて、僕って一体どんなお偉いさんだよ、って自分で突っ込んでしまった。シィンはまだ若いから、きっと生前のハーンには会っていないだろうし、話に聞く大賢者としての僕を見ているのだろう、とは簡単に想像できる。

 僕は、シィンの期待に答えるべきなんだろうか。そんなことが、僕に本当に可能なんだろうか。

 未来が、とても不安に思えて仕方が無い。





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