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 ルフィルにも簡単に聞いていた話だが、このヴァンフェスという世界は、神々の実験場と呼ばれる混沌の世界である。

 ここでいう神々とは、信仰の対象である概念的な神々ではなく、それぞれに意思のはっきりした古代人の生命エネルギー体なのだそうだ。その時点で、僕の中にある常識は見事に覆されることとなった。

 神々と呼ばれるその存在は、僕の感覚で言うところの霊魂に当たるもので、肉体を離れてあの世へも行かず転生もせず、この世にとどまって社会に影響を与え続ける存在だった。物に触れて動かすことも出来、生物に対して意思を伝達する手段を持ち、高度な技術と科学的な知識を豊富に持ち合わせる、昔の人間。

 彼らが作り出した文明は、今では遺跡として各地に点在しており、この遺跡こそがこの世界での混沌の原因でもあった。

 彼らは、自らを神と呼び、他者にもそう呼ばせたために、神々と呼ばれているわけだが、その理由が、生命に対する干渉技術によるものだったのだ。つまり、生物の創造主であるのだから、我々は神だ、という理論だ。

 僕の知っているところで判断するに、多分、DNA操作なのだろう。僕のいた世界でも先進技術とされていた技術が、この世界では大昔に確立されていて、この技術を乱用して作り出されたのが、ルフィルたち混合種というわけだった。

 倫理観が欠片も無い存在だということは、その説明だけで十分理解できた。自分たちを作り出した、僕が知っている神様という存在を、彼らは信じなかったのだろう。だから、他の命を冒涜するような真似ができるんだ。

 そして、その新種の創造は、今でもまだ着々と進行しているらしい。ハーンが死んでまだ五十年だというのに、ハーンの存在を知らず、このあたりでは混合種と人間が共生していたことを知らないような生物が、どんどん進出してくるのだという。そして、彼らに対抗する術の無い古い混合種は、どんどんと淘汰され、姿を消していっているのだそうだ。

 その過程は許されないものだとしても、生み出された命なのに。まるで要らなくなったおもちゃのように捨てられてしまうなんて。

 同じ人間という種族として、許せない行為だ。ハーンが自らを投げ出しても助けようとした気持ちがわかる気がした。対抗する力があるのだから、何もしないではいられなかったのだろう。

 しかし、それにしても、不思議な話だと思う。そこまで先進的な技術を持っていた高度な文明が、遺跡として残っているだけだなんて。お城の中を見ただけだけれど、彼らの行動やそこらにある道具や設備なんかを見ても、電気どころか蒸気機関すらまだ無い雰囲気だし、これに変わるエネルギーもまったくなさそうに見えるのだ。

 まさか、便利な道具類とか平和利用できるエネルギーとかをすべて放棄したとでもいうのだろうか。そんなことが、高い文明を持っていた人間に出来るのか?

 ヴァンフェスの現状を説明し終えて、喉の渇きを癒すシィンに、僕はその疑問をぶつけてみた。それに対して、彼は実に不思議そうにきょとんとした表情を見せただけだった。

「幸い、この土地は森に恵まれた肥沃な森林資源を持つ土地ですから、薪には事欠きません。それに、他国に比べて製紙技術も発達しておりますので、わが国の最大の輸出品となっています。遠い昔には、鉄板や磁気紙に記録を残す技術などもあったようですが、今ではそれらを読み解く機械も動力がなく動かせませんし、倉庫に眠ったままになっています。動力があったとしても、もう動くかどうかは怪しいですね」

 やっぱり、残ってるのか。そう理解して、それを動かそうと考えない彼らに、もしかしたら、失った技術に対する畏怖の念があるのかもしれないと思った。その技術を操っていた時代の人々が、今や自らを神として彼らの上に君臨し、生活を脅かしているのだから、恐がるのも当然なのかもしれない。

 でも、気になるよね、その道具。もしかしたら、僕の世界で使っていたものに似ているかもしれないんだ。鉄板や磁気紙って、ハードディスクやフロッピーのことじゃないのかな?

「その昔の道具って、見られますか?」

「はい。大賢者様でしたら、いつでも王宮の倉庫は解放いたします。まぁ、まずはこの世界でゆっくりなさってください。以前、大賢者様がお使いでしたお宅は、今もそのままございます。引き続きお使いください」

 それと、と、この世界で生きていくために必要なお金を、テーブルに乗せる。

「王宮付き魔術師として、お給金もお支払いさせていただきます。我々の都合でお呼びたてしたわけですから、これはお招きした者として当然のこと。どうぞご遠慮なくお受け取り下さい」

 これには、さすがに戸惑った。確かに、彼らの都合で呼ばれてきたのだけれど、来たこと自体は僕の意思でもある。お金がないと生きていけないのだからとてもありがたいのだけれど、本当に受け取って良いものなのか、ちょっと悩みどころだ。

 けれど、王様がくれるものとは、すなわち国庫から支給されるもので、肩書きというか仕事というか、それもちゃんとあるのだから、当然の報酬として成り立つのだし。

 ここは、これは受け取って、肩書きが示すとおり魔術師として働くのが最良の道なのだろう。魔術師なんて僕に出来るのかわからないけれど。

「まぁまぁ、そんなに硬くならず。顧問と考えてくださればよろしいのですよ。私の茶飲み友達として、時々城へ遊びにいらしてください。貴方様がその気になってくださった時に、我々もおすがりしますから」

 その気になってくれ、と言いたいところをぐっと我慢しているのが見え見えの言葉。

 でも、それもアリかな。今は、もう少し時間が欲しいところだから。





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