13




『白梟種のメリィアンだ。ハーンの参謀役だった、口うるさいオバサンだよ』

『ルフィル、あんたは相変わらず口が減らないわね。無口なら無口らしく黙っていたらどうなのよ。そんなに喋って、ガラじゃないわよ』

『うるさい。俺が喋らなければ、誰がハンペータに説明するのだ』

 まったく、と口の中でぶつくさと呟いて、ルフィルはそこに寝そべってしまった。不貞腐れたように重ねた前足に顔を乗せる。

 その仕草がなんだか可愛くて、僕は笑ってしまったけれど。

 メリィアンは、僕の荷物から飛び上がると、羽ばたく労もかけずに会議室のテーブルに飛び移り、首だけでこちらを振り返った。さすがフクロウ。

『こっちにいらっしゃいな、ハンペータ。その荷物はルフィルが見てるから気にすることは無いわよ。後でモーリーに運ばせましょ。あのバカ力はこういう時のためにあるのだから。さぁさ、座ってちょうだいな。説明しなければならないことは山のようにあるのだし、この国の言葉も覚えてもらわなくてはね』

 次から次へとよくも話す言葉が出てくるものだ、と思わず感心して聞いてしまう。

 バル王は僕と言葉が通じないことを気にした様子も無く、片隅で自ら紅茶を淹れてくれていた。僕のことはこのメリィアンに任せたつもりらしい。楽しそうな表情は、お茶を淹れるというその行動自体が楽しくて仕方ない、といった様子だ。

 メリィアンに促されるまま、僕はそこにある椅子の一つを引いて座った。その正面に、メリィアンもひょいひょいと軽くジャンプして移動してくる。

『まずは、この国の言葉ね。一から勉強しても良いのだけれど、それでは時間もかかるし、もっと楽な方法があるのだから、そちらを採用すべきだわね。はい、ハンペータ。ワタシの言葉を復唱してちょうだい』

 復唱? それは、魔法の呪文ということなのだろうか?

『メトリロ』

「メトリロ?」

『ルーシェファルシタ』

「ルーシェ、ファル、シタ」

『レイラリーフェラ』

「レイラリー、フェラ」

 うわ。舌噛みそう。

 とにかく、そう言えというのだから、真似して言って見る。

 で、それでおしまい?

『さ、シィンに話しかけてみてちょうだい』

 シィン、って、それは、バル王のことか? 何? メリィアンって、バル王をファーストネームで呼ぶ立場なわけ?

 さぁ、さぁ、とメリィアンが急かすから、仕方なく、僕は向こうで紅茶をカップに注いでいるその人に声をかけてみた。

「あの。王様?」

「え? あ、わぁ」

 王様、驚きすぎ。紅茶がこぼれかけて、僕も一緒に慌ててしまった。

 王様本人は、手に持ったままのティーポットを気にも留めず、突然興奮したようにこちらに近づいてくると、テーブルに両手をついて身を乗り出した。僕の位置は、テーブルを挟んで反対側だから、それこそ、僕に急接近だ。

 乱暴にテーブルに置かれたポットが、ガチャンと抗議の声を上げたが、幸い割れた様子は無い。

「大賢者様、お言葉がわかるようになられたのですね。すばらしい」

 すばらしい、っていうか。僕もビックリだよ。なんでそんなに滑らかに言葉がわかるの? 僕は日本語で考えてるし、日本語を言っているつもりなのに。

 でも、よく僕の言葉を聞いてみれば、確かに日本語っぽくない。

 これが、昔ハーンが使っていたという魔法なのか。すごいな。これじゃ、言葉を覚える苦労なんて必要ない。英語の授業であれだけ苦戦したのが嘘のようだ。

 この王様は、実に王様らしくなく庶民的な人柄で、慌てたようにもう一度もとの場所に戻ると、両手にティーカップを持ってこちらにやってきた。今度は、少し落ち着いた様子で、僕の前にティーカップを差し出す。

「まぁ、まずはお茶でも飲んで落ち着きましょう。ご説明したいお話はたくさんあります。記憶はさすがに引き継いでおられないのでしょう?」

 まるで当然のことのようにそう言って、彼は指先で軽々とカップの取っ手を持ち、優雅に口に運ぶ。さすが、生まれが違うだけのことはある上品さだ。

「まずは、自己紹介を申し上げます。私の名はシィン・バル。シィンとお呼びください。この国の王に当たりますが、予言者でもあります」

 予言者?

「貴方様の転生の地を探し当てたのも私です。我々にとって、大賢者様の復活はまさに悲願。どうか、私どもを再び平穏なる日常へと導いてください」

 あぁ。ルフィルが言っていた、予言者の言葉に従って僕を連れ戻しに来たという、その予言者か。

 まったく、余計なことを。と思う反面、イジメから逃げ出せたことは僕にとっても利があることで、一概に憤慨できないのが悔しい。

「そうは申しましても、突然つれてこられて、救ってくれと頼まれたところで、貴方様にとってはわけのわからないお話でしょう。まずは、この世界についてご説明申し上げます。お茶を飲みながら、ゆっくりお聞きください」

 何をするにせよ何をしないにせよ、判断材料として情報は必要で、それをこちらから請う前に教えてくれるというのだから、僕は大人しく彼の説明を聞くことにする。

 目の前に羽根を休めているメリィアンが、さすがに夜行性にとってこの時間は熟睡時間なためか、すでにこっくりこっくりと舟をこいでいた。





[ 13/54 ]

[*prev] [next#]

[mokuji]

[しおりを挟む]


戻る



Copyright(C) 2004-2017 KYMDREAM All Rights Reserved
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -