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翌日。
学校内は依然として、騒然とした雰囲気に包まれていた。崩壊現場は青いビニールシートで補強され、その校舎全体に対して、崩れる危険性があるとして立ち入り禁止命令が下り、この校舎で学習していた生徒たちは学校の校庭に張ったテントの下で授業を受けることになったらしい。
僕たち二年生は別の校舎だったから、以前と同じく教室で、通常の授業が再開される。
クラス内は、落ち着かない様子だった。男子の三分の二は怪我を理由に欠席し、五人は重体で入院中、一人は意識不明で危険な状態が続いているそうだ。
校舎の反対側にあった女子更衣室で着替えていた女生徒たちは当然無傷で、自分のクラスで起こった惨劇の噂話に余念が無い。
唯一無傷で残った男子である僕は、男子からも女子からも気味の悪いものを見る目で遠巻きにされていた。僕の前後左右の机が遠ざけられ、中には今日欠席している男子生徒の机に移動した女子もいる。
だから、そういう態度がイジメだって言うのに。もう、外面を取り繕う余裕すらないらしい。
先生は、僕に対して特別な感情を持っているわけでもなく、僕を遠ざける理由もわからないようで、そんなクラスメイトの行為に眉をひそめ、注意してくれる人もいた。が、事態は改善される様子は無かった。
そしてそれは、三限目の終わった休憩時間に起こった。
一人の、腕を骨折しているらしく、片腕を吊っている男子生徒。昨日僕が着替える姿を見つめていたといった、自意識過剰な奴。
「何でここにいるんだよ、この化け物。よく俺たちの前に顔を出せたもんだな、えぇ?」
それが、皮切りになった。途端に、登校していた全男子生徒が僕の机を囲んだ。
「一体何をしたらあんな風に校舎が壊れるんだよ」
「お前だろ、あんな異常なことする奴」
「状況的に見て、お前が崩れた現場の中心にいたもんな」
「ホントのこと言われてかっとなってやりました、って自白したらどうだよ」
「ただからかっただけなのに、パニクって叫び声なんかあげちゃってさ。大げさなんだよ」
「おい、何とか言ったらどうなんだよ」
何とも言えない。昨日の言いがかりは根も葉もなかったが、今回は事実として僕が原因なんだ。
だから、身を縮めて黙っているしかなかった。落ち着け、落ち着け、が僕に対する呪文だ。
っていうか、あれが僕の仕業だと本当に思っているのなら、今こうして僕を責めていることで、この場所が昨日の惨劇の現場と同じ状況になるとは、思いつかないのか。このお坊ちゃまたちは。
「てめぇ、無視してんじゃねぇよ!」
ぐい。そう、昨日と同じように、肩を強引に引かれる。が、次の瞬間、その耳元でバチッと強い音がしたかと思うと、僕の肩を掴んだ彼が慌てて手を離した。
途端、全員が僕の側から一歩離れる。
今のは僕も痛かった。まるで、電流が身体を流れたような、鋭い痛みだった。その発生源である肩に触れれば、余程強く握られたのか、指の形に肌が窪んでいた。
それは、すぐに気にならなくなったけれど。痣にはなるだろう。
「な、なな、何だよ、今のっ!」
今度こそ、パニック状態になった。今のは、誰がどう見ても、僕が何かしたとしか見えなかっただろう。
だから、今までは他人事のように見ていた女子たちまで、集まってきてしまった。周囲をぐるりと囲まれて、僕はただ、俯くしかない。
間違いない。これが、僕の力。
どうやって抑えたらいいのかもわからないのに。あふれ出してしまう凶暴な力。
ハーンは、この力をどうやってどんなことに使っていたのだろう。破壊するしか能の無い力なのに。
僕自身の心の葛藤をよそに、周りは言いたい放題に僕を罵る。使い古された言葉の数々に、僕が出来ることはじっと耐え呆れることだけ。
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