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捕らえられて目が覚めて、二番目にやってきた客人は、一番目と同じ相手だった。
立ち去ってから、十分か十五分かしか経っていない再びの訪問に、セレは眉をひそめた。
「今度は何の用だよ。ここから出してくれるのか?」
まったく期待していないから、態度にふてぶてしさが表れる。
海賊などという無頼の輩を相手にして、命知らずとも言える態度だが、セレはそれを自覚していながら、改める気にはならなかった。
むしろ、大人しく従っていては現状維持以上の事態の変化は望めないのだ。
何とか状況を打開したいのだから、事を荒立ててでも何かしら動かすしかない。
そんな少年の思惑を知ってか知らずか、ゴルトはセレの憎まれ口を無視して、ただその顔をじっと見つめた。
何の感情も読み取れない視線に、根負けしたのはセレだった。腰が引けたまま、問い質す。
「な、何だよ」
「……お前、嵐になると言ったな?」
何を問われたのか、セレには一瞬わからなかった。腰が引けていたからこそ、素直に驚きを表現してしまう。
「そんなこと、言ったか?」
「言っただろう。神子だと思っていたから何とも思わなかったが、お前がマレ・アザークでないなら、何故わかる?」
それはきっと、当然の疑問だ。
それを、問い質されたセレにとっては、頭を抱えたい事態なのだが。
「……気のせいだろ」
「いいや。確かに言った。その後に俺が言った言葉も覚えているぞ」
「……『さすがは神子。そんなこともわかるのか』」
「その通りだ」
覚えてるじゃないか。呆れた口調でそう言って、ゴルトは腕を組む。
答えるまで逃がさない、そんな態度を取られて、セレは頭を抱えてベッドの上にうずくまった。
「何だ。国家機密だとでも言うつもりか?」
それは、口をつぐむセレに対して、冗談のつもりで言った言葉だった。
が、セレはその言葉にさらに身を縮めた。それは、冗談では済まなかった。
「……マジか」
「知ったら最後、生涯墓場まで秘密のまま持っていくことを国に誓約しない限り、後に残る家族や知人にまで命の危険が及ぶ。そういうレベルの秘密だ」
実際、この件で五十人ほど犠牲になっている。冗談では済まないのだ。
真剣な表情で脅してみせるセレにつられて、ゴルトも思わず真剣な表情になる。
が、すぐに自論に思い当たったようで、ふん、と鼻で笑い飛ばした。
「そもそも俺はすでに賞金首だ。今更命を狙われる理由が一つ増えたところで、なんてことはねぇな」
「だから、そういうのとはレベルが違うって。必要とあれば、この船ごと沈めることだってあり得るんだぞ」
「お前も巻き込んで、か?」
「……それは、ないな……」
少し興奮気味だったセレの言葉に力がなくなる。
言い負かして、ゴルトは子供っぽく胸を張った。まるで、小さな手柄を自慢するようだった。
「つまり、お前も神子なんだな?」
「王国は認めていないから、神子という立場ではない。ただ、神の御加護を受ける身だというだけだ」
「国がどうだろうと俺には関係ねぇ。俺が興味があるのは、もっと具体的なことだ。お前の力で、嵐の進路はわかるのか?」
それは、確かに具体的、かつ、緊急性の高いものだった。
さらに言えば、セレも無関係ではなかった。
嵐に負けて船が海の藻屑となるなら、セレもまた道連れなのだ。
「ここでは無理だ。外に出ないと、正確な情報は得られない。それに、海図がいる。あんたらに口頭で伝えて正しく伝わるのか、実に不安だ」
ひとまず、目の前に刻一刻と迫る嵐を避ける。
今後のセレの身の振り方については、生き延びた後にゆっくり交渉すれば良いことだった。
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