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 トーナを追い出して、ゴルトはぬるま湯を満たした盥を床に置くと、セレが被っている毛布をそっと取り去った。

「ちょっと我慢しろよ。キレイにしてやるから」

 まったく至れり尽くせりだ。
 しっかり絞った布をセレの肌に滑らせる手付きが、まるで病人を看護するような優しさで、なんだかくすぐったくなってしまう。

 自分の白濁で汚れた腹部も背も腹も腕も足も丁寧に拭われて、マッサージされている気分でセレは気持ちよさそうに目を閉じた。
 抱き起こされて後腔に布が当てられても、そこに指が潜り込んできても、セレはされるがままになっていて、ゴルトは少し怪訝な表情を見せてセレの顔を覗き込む。

「大丈夫か?」

「……何が?」

 一応我慢をしているらしく、眉根に皺が寄っている。だが、嫌がるそぶりはまったく見せない。
 つまり、何のためにそうするのかを理解していて、それを任せてくれているということなのだろう。

「一応、恥ずかしい……」

「……悪い。もうちょっと待ってろ。すぐ終わらせてやるから」

 ゴルト自身もセレの媚態に煽られて余裕がなく、何度もその中で放ってしまったのだ。
 キレイに掻き出してやらなければ、後でお腹を壊してしまう。
 それを、セレは経験して知っているからこそ、身を任せる代わりに、恥ずかしがって、ゴルトの首にしがみついて顔を伏せた。

 内部に残った残滓が、潜り込んできた指で掻き混ぜられて、くちゅ、と音を立てる。
 それは、正体を知っているからこそ、余計卑猥に感じる音だ。

「ぁ……んっ……」

 何しろ、三時間かけて快感に慣らされた身体だ。少しの刺激でも、セレの身体を震わせてしまう。
 場所が場所だけに、セレに声を我慢してくれと頼むわけにもいかず、ゴルトはその声に煽られかける自分を戒めるので精一杯だった。
 これだけ密着していれば、ゴルトの身体の変化など丸わかりなのだろう。
 セレも、極力声を我慢してくれているのがわかる。

「よし、おしまい。よく頑張ったな」

 偉かったな、と、まるで幼い子供を誉めるように頭を撫でる。
 セレも、撫でられるのが気持ち良いらしい。大人しく、されるがままになっている。

「珍しいな。嫌がらないのか?」

「あぁ、なんというか……。もう、良いよ」

「は?」

 一体、何が、もう良いのだか、さっぱり掴めない。
 セレが何かに諦めたようなのはその口調からわかるのだが、その何かとは、一体何なのか。

「セレ?」

「あんたなら、俺のこと、大事にしてくれるだろ? ゴルト。だから、もう、良いよ。好きにして。全部、任せるから」

「それ、なげやりって言わないか?」

「言わないだろ。俺は、俺のままさ。ただ、俺の身柄を、あんたに任せる、って言ってるんだ。そっちには、文句ないだろ?」

 子ども扱いしても、恋人にしても、かまわない。
 セレをセレのまま愛してくれる人だと実感したから、それ以上のことは、はっきり言って拘りがなかった。
 どうせ、幼少期の経験から、いろいろと常識的なモノが欠落しているのだ。
 自分の生き方にも拘りなどない。
 今までだって、箱庭から救い出してくれた姉に全権を委託していたようなものだ。
 ゴルトが導いてくれるなら、それに従うだけだった。

「じゃあ、船に残ってくれるんだな?」

「あんたがそれを望むなら」

「もちろん、望むさ。恋愛云々以前に、お前の力は喉から手が出るほど欲しいんだ。
 確かにこの船は、来る者も拒まねぇし、去る者も追わねぇ。だが、何事にも例外ってもんがある。
 お前は、絶対に船から降りさせねぇぞ。覚悟できるか?」

「あぁ。良いよ。あんたが俺に飽きるまで、いくらでも付き合ってやるさ。ここにいれば、少なくとも退屈しそうにないしな」

 明らかに、深く考えていない反応なのだが。
 ゴルトは、セレの軽い反応にがっくりと肩を落とし、彼を抱きしめているこの体勢をいいことに、身を預けた。
 華奢な身体なのに、セレは平然とゴルトの筋肉質な重い身体を支えてくれる。

「ただし。当初の予定通り、姉を助けるのは協力しろよ」

「……あぁ、もちろんだ。お前を長年苦しめてきた諸悪の根源には、思い知ってもらわねぇとな」

 まるで自分のことのように憤慨するゴルトを上目遣いに見返して、セレは少し驚いたように目を丸め、それから、くすくすと笑った。
 それは、実に楽しそうで幸せそうな笑い声だった。

 セレが笑うのに気をよくして、ゴルトは再びベッドを降り、立ち上がる。
 盥を手にして、自分を見上げてくるセレの頭を、ゴツゴツとした大きな自分の手で撫で付けた。

「夕飯もらってくるよ。大人しく寝てろ」

「アイサー、キャプテン」

 右手を額に翳してふざけてみせるセレに笑わされて、ゴルトは今度こそ上機嫌で、部屋を出て行く。

 その大きな背中を見送って、自分で決心したとはいえ、今朝までは思っても見なかった心境の変化に、肩をすくめるセレだった。





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