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 目を閉じれば、薬に負けて狂ったように雄を求めるセレを、優しく抱いてくれたゴルトの指を、自然と追っていた。
 男の指があんなにも優しく動くのを、セレは初めて知った。
 男同士の性行為が、苦痛だけではないことも、きっと初めて知った。
 要は、気持ちの問題だということだ。

 そして、優しく抱かれる快楽を知ってしまった自分が、意に沿わない相手の指の感触を受け入れられないことも、簡単に想像がつくのだ。
 この船に乗る前の生活には、もう戻れない。

 神官長だけではない。セレがその身体を差し出さざるを得なかった相手は、軽く五十を数える。
 神殿の関係者に王族に軍部のお偉方に。
 セレの正体を知っている誰も彼もが、セレを自由に弄びたがった。
 セレの正体を知っていてまったく手を出そうとしなかったのは、近親者以外では、セレが箱庭から外へ出るきっかけを作ってくれた、姉の護衛官であり、自分の上司でもある、王国親衛隊第二師団長だけだ。

 それはきっと、今回の件で神官長を失脚に追い込んだところで、変わらないのだろう。
 セレの立場そのものが変わらない限り。

 自分に催淫剤を盛ったというモーサンの目論見が何であったのかは知らないが、もしそれがセレに危害を加えるためのものであったのだとしたら逆効果で、結果的にはセレの決心を促したものになったわけだ。

 国にはもう戻れない。ならば、この船に残るしかないのだから。

 それはしかし、今のセレにとっては、悪い選択肢ではなかった。

 少し肌寒い気がして、ベッドの下に落としてあった毛布を手繰り寄せて自分の身に被せると、ちょうど同時に、部屋の戸が開かれた。

 戻ってきたのは、盥を抱えたゴルトと、水差しとコップを盆に載せて持ってきたトーナだった。
 セレが身動きしているのに、二人ともほっとした表情を見せる。

 先に話しかけたのは、トーナだった。

「セレ、大丈夫? どこか痛いところとかあらへん?」

 昔は性奴隷やら男娼やらといった立場だったトーナだ。
 セレに起こった事態は聞いているのだろうから、その前提で、心配そうな声で尋ねてくれる。
 セレが答える前に、そんな無茶はさせていない、とゴルトが憮然と呟いたが、それを鵜呑みにするトーナではない。

 自分こそが痛そうに心配してくれるトーナに、セレは少し笑って返した。

「大丈夫だよ。優しくしてくれた」

「ホンマに? こんな阿呆、庇わなくてえぇんよ?」

「阿呆って……。本当に、大丈夫だって。ゴルトは、助けてくれただけだよ」

 身体が起こせないのは、ただ単に疲れきってしまっているだけだ。
 腰が少し鈍く痛むが、傷ついた痛みではないのだから、トーナの心配の範疇ではない。

 セレの表情が穏やかなことで、トーナはひとまず納得してくれたらしい。
 水差しとコップをテーブルの上に放置されていたものと取り替えて、もう一度セレを確認するように見やり、ニコリと笑ってみせる。

「ゆっくり休み。船長こき使ってえぇから。夕飯は普通に食べれそうなら持ってくるで?」

「いや、俺が取りに行く」

「そ? せやったら、二人分、用意しとく」

 ゴルトの独占欲丸出しの台詞にも頓着せずに返し、トーナは「お大事に」と言い置いて部屋を出て行った。
 自分が乗る船の船長だ。被害者と思しき人物の態度で納得できれば、それ以上は警戒する必要も見出さない彼は、きっと根が純粋なのだろう。





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