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 そういえば、捕らえてきた男が騒がないなぁ、とセレが気付いたのは、海賊船マリート号の姿が見えた頃だった。
 まるで丸太でも担ぐように男を一人肩に担いで、ゴルトは飄々とセレの前を歩いていく。

 馬車で連れ去られた先は、意外に遠かった。

 男を担いだ大男と某国のお姫様のような少女の道行きは、人の好奇の目を引き寄せたが、二人ともまったく気にせず先に進んでいく。

 大人しい男を改めて見やれば、気持ちよさそうに気絶していた。

「何? 気絶させたんだ?」

「うるさいからな。人通りを歩くのに騒がれては適わねぇ」

 ふぅん、と興味もなさそうな返事をしながら、しかし少し嬉しそうに笑って歩くセレを振り返って、ゴルトは立ち止まった。
 ズンズンと先を歩いていくゴルトを追いかけていたセレは、一緒に立ち止まって首を傾げた。

「何?」

「お前、嬉しそうじゃねぇか?」

「はぁ? 別に嬉しいことなんか何もなかったぞ?」

「そうだよな? だったら、何でまた、そんなに足取りが軽い?」

 まったく腑に落ちない。何も解決していないし、これから一騒動待っているのだ。
 セレの姉は今回の件の首謀者のもとに残っている。
 あれだけ姉にこだわっていたセレだ、心配だろうに。

 そうしてゴルトに見咎められることで、セレは自分の状態を振り返ってみた。
 確かに、少し気持ちが上向いているらしい。

「何だろうねぇ。久しぶりに身体を動かしたせいかね」

「ふん。あれしきで、動かしたうちにはいらねぇだろ、お前には」

「そうだな」

 あっさり認めて、それ以上深くは考えていないらしいセレに追い越され、ゴルトは軽く首を傾げて、再び歩き出す。

 歩きながら、一応は考えていたらしく、セレが手をポンと叩いた。

「黒幕がわかってすっきりしたせいじゃないか?」

「まだ解決には程遠くないか?」

「うん、程遠いけどね。でも、道の全容は見えた。後は歩いていくだけさ。たいしたことじゃない」

 今まで一体どんな苦労を常態としてきたのか。
 セレの台詞に、ゴルトは眉を寄せるより他にすることを思いつけなかった。

 しかし、だからこそ、自分のそばに留め置いてやりたいと思う。
 これ以上面倒な苦労をさせないように、守ってやれる位置に。

 桟橋に足を踏み入れたときには、船のほうからも二人の姿が見えたのだろう。
 バリスが二層の出入り口から顔を突き出し、こちらに手を振った。

「お帰り! 出港準備は済んでるぞ。早く上って来い」

 特に、出掛けに頼んでいったわけではない。
 だが、この港に寄港した目的と状況から、バリスが判断して気を使ってくれたのだろう。
 ドルイドの後釜を固辞したくせに、随分と副官の似合う人材だ。

 セレはゴルトと顔を見合わせ、今度こそ理由もしっかりした嬉しそうな笑みを見せた。

「ホント、良い人材の揃った船だな」

「だろ? だから、お前も残れって。居心地良いだろ?」

「この一件が片付くまでには考えとくよ」

 結局やはり応でも否でもない。だが、はっきり拒まない分、期待はできる答えだった。
 それなりに心惹かれる部分はあるのだろう。

 ならば、事ある毎に口説いてゴルトの本気を伝え続けるのも、方策としては間違っていないはずだ。
 一歩間違えれば、鬱陶しがられる心配はもちろんあるが。





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