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 まず一人目に選んだのは、左から突きを繰り出してきた男だ。
 その腕を寸前でかわして反対に自分から掴み、突き出した勢いを利用してその方向に引いてやれば、相手はそのまま前のめりに倒れる。
 そして、丁度そこにパンチを繰り出して軸足を踏み出した仲間の、力強い踏み込みに潰されて呻きと共に気を失った。

 仲間を踏んだことで動揺した隙を見て、突き出した格好のままだったその腕を掴み、セレ自身がその背に回って背負うように捻り上げる。
 そうして動きを封じられた二人目は、セレを襲っていた仲間の拳に胸を強かに打ち据えられて気を失った。

 そのまま背負い投げもできる体勢だったセレだが、相手が気絶したことで興味を失ったようにその手を離した。
 崩れ倒れかける男の上げられたままだった腕に再び掴まって、重力に従って崩れ落ちるその勢いを借りて宙に飛び上がったセレは、その着地先にゼルの肩を選んだらしい。
 宙で身体を一度捻って体勢を立て直し、思わず宙を舞うセレを見上げてしまったゼルの両肩に器用に着地する。

 突然セレに肩を踏みつけられてバランスを崩したゼルが前のめりに倒れかける。
 それがまるでわかっていたように、ゼルの背後を正面にしてそこに立ち、そのまま背を滑り落ちた。
 前のめりになったゼルの背に仰向けになる形が、まるで計算されつくしたショーを見るようだ。

 その背の上で、セレは無造作に足を跳ね上げる。
 すらりとしなやかに伸びた足は、ゼルの背後に丁度位置していた男の顎を直撃し、相手を後方へ弾き飛ばす。

 セレは男を蹴り飛ばしたことなどまるでなかったかのように、その背の上で後転して、ゼルの正面に着地した。
 した途端、もう一度宙返りをしてみせる。
 それは、目の前のゼルを蹴り飛ばし、自分の背後に立つ残りの一人のさらに背後に回る最短手段だったらしい。

 最後の一人は、がら空きに近い脇腹をセレに正拳で突かれてノックアウトした。

 一人残らず、セレよりも一回り以上大柄な男たちだ。
 それが、それぞれ一撃で、もしくは仲間の攻撃の盾にされて、やられてしまったのだ。
 完全な敗北だった。

 唯一、この混戦で仲間に傷をつけないために、彼らが武器を放棄したのが救いだった。
 そうでなければ、彼らは味方の武器によって命を落としていたかもしれないのだ。

 気づけばほとんど使っていない手をこれ見よがしに払って、セレは積み上げた人の山の前に仁王立ちになった。
 偉そうに腕を組み、乱闘から離れて見守っていたトーナとニノを振り返る。

「片付けたは良いが、この場合、どうしたら良いんだ?」

「……どう、っちゅうと?」

「目が覚めるのを待って連行するか、放置して先に帰るか」

 前者の方が人道的だろうが、彼らに再び襲われるリスクもある。
 だが、この三人だけで戻って、彼らに襲われて返り討ちにした、という証言を信じてもらえるのかは、大分微妙だ。
 少なくとも、トーナもニノも非力であることは、仲間内によく知られた事実だ。
 ということは、セレ一人で大男五人を打ち負かしたことになる。
 もちろんそれが事実だが、信じがたい事実だ。

 問われて、トーナとニノは互いに顔を見合わせた。
 示し合わせたわけではないが、同時に肩をすくめる。

「放置してえぇやろ。ここまで連れて来たんはこいつらやし、自分らで帰って来られるやろ」

「……水はどうするよ」

「俺らで水入りポリタンク十三個も持てるはずないやん。一旦帰ろ」

「帰れるか? 俺は無理だけど」

「俺も無理やね。セレは?」

 非戦闘員同士、気は合うらしい。
 話し合い始めればスムーズに止まることのない会話が展開する。
 それから、気がついたようにセレに話を振られて、自分の名がそこに出てくるとは思っていなかったセレは、一瞬ついていけずに目を丸くしてしまった。

 今までセレの名を呼んだことのなかったトーナが、セレが驚いた理由を読み間違えたか、困ったように頭を掻く。

「えと……。セレ、やったよね? 名前」

「……あぁ。うん。合ってる。
 ごめん。自分に振られるとは思ってなくて、ちょっと驚いた」

 戸惑いながらの返事で、その驚き具合がわかるのだろう。
 はは、と笑うだけで返事を待つ二人に、落ち着くのを待ってくれているのがわかって、セレは少し微笑んで頷いた。

「道はわからないけど、船の位置はわかるから、迷わず戻れると思う」

「よっしゃ。せやったら、セレ、道案内頼むわ」

「よろしく〜」

 調子良く頼ってくる二人に、セレは仕方なさそうな振りを見せながら、嬉しそうに笑って頷いた。





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