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 聞いている一方のニノの方はといえば、理解できなくても気にしない性格なのか、トーナとの会話を聞いていて用が済んだのか、腕を組んで何やら考え込んだ。

「つまり、前を行く連中は、何を考えて先に進んでるんだ?」

「ゼルはいつもはもっと慎重な方やなぁ。盲滅法に動くタイプと違ったと思うねんけど」

「ゼル……だっけ?」

「せやろ? ほら」

 ずんずんと先を行く一団の先頭に立つ男の後姿を指差して見せる。
 そのトーナの指先を追って、仲間内ではほとんどがそうだが、大柄な男を見やり、ニノは何に気づいたのか眉間に皺を寄せた。

「ゼルって、ドルイド派じゃなかったか?」

「……いややねぇ、政治の世界って」

 政治というには規模が小さいが、確かに首脳陣の権力争いは政治的な問題だ。

 ドルイドの名を聞いて、この集団についてはまだ人物相関関係図が脳内に仕上がっていないセレにも、それがどういうことか理解できた。

 つまり、ドルイドに喧嘩を売ったセレの身が危険、という状況だった。
 そのそもそもはドルイドの自業自得だろう、とセレなどは考えるのだが。

「そいで? 相手の意図が読めたところで、どないするんや?
 船まで逃げ戻るんなら付き合うで。俺かて巻き込まれるのは割に合わん」

 尋ねたの相手は、セレだ。彼らの攻撃対象がセレであることは、疑いようのない事実だった。
 ニノやトーナが相手ならば、それは今するべきではなく、それこそセレがこの船にやってくる前にも何度もチャンスはあったはずなのだ。

 問われて、セレは特に考える様子も見せなかった。

「受けて立つつもりだけど?
 まぁ、実力行使を安易にできないように、非戦闘員で船の重要人物を二人もストッパーに付けてくれたんだろうけどね、船長は」

「え? 何? 俺たちってそういう役目?」

「まぁ、せやろなぁ。俺、今まで水汲みなんて重労働に参加したことあらへんもん」

「船長変わってから初上陸だから、そういう方針なのかと思ってたよ」

「お前って、頭良いくせにバカ正直やなぁ。それやからみんなにナメられるんとちゃうか?」

 分析した結果を考える限り、こんなにものんびりと話していられる状況ではないはずだ。
 しかし、二人とも気にした様子がないのは、セレが受けて立つ姿勢を見せたことで、腹を括ったのだろう。
 非戦闘員とはいえ、海賊船の乗組員だ。気構えが違う。

「せやけど、どこまで行くつもりやろなぁ。えぇ加減にせんと、船に戻る道もわからんようになるで」

 今まで以上に警戒して距離を取りながら、前の一団に従いつつ、トーナが後ろを振り返る。
 鬱蒼としたジャングルが、彼らの視界を遮り、方向感覚も麻痺させる。

 同じように後ろを振り返って、ニノは肩をすくめた。

「すでに迷う自信あるぞ、俺」

「嫌な自信やなぁ。けんど、俺もやわ。これ、無事に帰れるんかいな」

 角を曲がった覚えはないが、何しろ歩いているのは獣道だ。
 木や草に遮られてくねくねと曲がった道では、方向感覚も麻痺している。
 元来た道も辿れるかどうか不安だ。

 その二人に自然に脇を守られているセレは、特に不安にも思っていない表情だったが。

 そうして三人で後ろを向いていることで隙ができたのか、すぐ後ろに人が現れたのに、まったく気づかなかった。

「帰る心配など不要だ。どうせ生きて帰れない」

 言葉と共に、ひゅんと風を切る音がして、セレは咄嗟に身を捩り、振り返った。
 今までセレの身体があった場所を、重そうな段平が落下していくのが見えた。

 すぐ隣で起きた事態に、セレを挟んで両隣にいたトーナとニノが揃って立ち竦む。
 突然の慣れない出来事に対応しきれず、二人とも口をパクパクさせるのが関の山だ。

「二人とも、突っ立ってないで離れろ。危ないから」

 ほとんどツッコミに近い口調で言って、二人の腕をそれぞれ掴み、自分の方へ引き寄せる。
 非戦闘員である彼らと、背格好はさほど変わらないセレが、自分の背に守った形になった。





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