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「条件?」
合いの手を入れながら、理解できないところは質問しながら、セレの語る話を聞いていて、ゴルトはおおむね理解したらしい。
そして、セレが自由を手に入れるのと引き換えにしたその条件を聞きたがった。
元より話すつもりだったらしく、セレはこくりと頷いた。
「一つ目は、王位継承権の放棄。現王の子は三人だから、姉が四位、俺が五位のはずだった。その継承権を、二人揃って放棄すること」
そもそも、双子が不吉といわれるのは、王位を巡る争いが起きやすい、というのが根本原因なのだから、権利がなければ災いも起きるまい、というわけだ。
それは、それだけでも十分引き換えにできる条件のはずだが、セレには他に二つの条件を突きつけられた。
「二つ目は、王国親衛隊への入隊。しかも、一般志願者として試験を受け、入隊できたら認めてやろう、というものだった。
三つ目は、俺の正体を隠匿すること。孤児として市民登録して、王族であることを絶対に知られないように」
「随分と酷い扱いだな。それを、丸々受け入れたのか?」
「幽閉生活に比べれば、職業は与えられるし地位は放棄できるし、その時の俺にとっても好条件だったさ」
よほど厳しい生活を強いられていたのだろう。
その時の、と注釈を入れてみせたものの、現在でもまったく後悔していないことがわかる。
それらの条件を飲んだ結果として、自由の身になり、姉に間違われて誘拐されるような目にもあったわけだが、もっとも、とセレは肩をすくめて見せた。
「もっとも、王も神官たちも、俺が親衛隊に入隊できるとは思ってなかったらしい。
武術を習ったとはいえ、武器は与えられていなかったわけだし、まさか素手で並み居るライバルを打ち倒せるとは思わなかったんだろう。
実際の話、最終試験の時間制限バトルロワイヤルで一人勝ちしたおかげで、第二師団第一部隊の入隊も物言いの余地無しだったわけだけどね」
「バト……。ちなみに、全部で何人の乱戦だ?」
「俺入れて、三十人。歴代一位の記録だったらしくて、当時は随分騒がれたよ」
「……だろうな」
あれだけ素晴らしい演武を見せられ、この船で一、二を争う攻撃力を誇る男をあっという間に捻じ伏せ、野生の爬虫類を気迫で追い返した男だ。
さもありなん、という反応しかできなかった。がっくり、と肩の力も落ちる。
「あんたを誘拐できたのは、実はかなり運が良かったんだな」
「俺にとっちゃ一生の不覚だよ。後顧の憂いを完全に払っておかないと、おちおち国にも帰れない」
「悪かった」
そのことに関しては、異議はない。知らなかったとはいえ、そんな微妙な立場の人間を攫ってしまったのだ。
本人は戻るに戻れないし、攫った側も下手な手は打てない。
王国から見れば、厄介者と虫けら以下の犯罪者が同船しているようなもの。
この船を沈めてしまえば、海賊を一つ壊滅させた手柄を得て、なおかつ厄介者をも闇に葬ることができる、絶好の機会だ。
「ということは、なおのこと協力するしかないんじゃないか。一蓮托生だ」
「だから、協力しろって言ってんだろ」
「今更だが、納得した。全面的に協力するよ。俺も命は惜しいし、仲間たちを巻き込むわけにもいかないからな」
「そもそもすでに賞金首だ、とか嘯いたのはどこの誰だったかな」
「……忘れたな」
そこまでの深い事情があるとは誰も思うまい。
まぁ、どう答えていようとも、セレがここにいる時点で同じ運命だろうから、大した違いはない。
呆れたように笑ったセレは、力なく肩を落とすゴルトに満足したのか、寄りかかっていたドアから身体を起こし、ノブに手を当てた。
「じゃあ、医務室に行ってる」
「……あぁ。ついでに、ニノの相手でもしてやってくれ。この揺れじゃ、多分ぐったりしてるだろうよ」
「了解」
さらりと長い髪を揺らして身体を反転させ、ドアを出て行く。
そんなセレを見送って、室内に他人の視線がなくなると、ソファに凭れていたゴルトは、さらにずるずると滑り落ち、ソファに転がった。
彼の口から漏れたのは、深い深いため息だった。
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