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ゴルトを怪訝そうに見つめるセレを振り返り、ゴルトが肩をすくめて見せる。
「嵐の後は船の修理やら何やらで怪我人が出やすいからな。爺さん一人じゃ手に余るだろう。手伝ってくれ。ただ飯喰らいを乗せておけるほど、この船は余裕がない」
「良いのか? 他の乗組員に知られても」
「ふん。それこそ今さらだ。アザークから先代の伝手で乗せた客人、ってことにでもしといてくれ」
丁度足の付け根が台の高さと合うテーブルに寄りかかり、軸足にした右足に左足を絡めて、腕を組み踏ん反り返るゴルトに適当にあしらわれて、セレは小さくため息を吐いた。
ついでに、肩もすくめる。
「船長がそれで良いってんならかまわないけどさ。で? 俺は医務室で寝起きすれば良いのか?」
「あぁ。そうしてくれ」
「りょーかい」
とりあえずの身の振り方が決まれば、この場所にもう用はない。
小柄な体格に見合った身軽さでソファから立ち上がり、他三人が出て行った扉へ向かう。
セレの行動を目で追って、ゴルトは、そうそう、とセレを呼び止めた。
「一つ教えてくれ。お前、王族のはずだな? 何故徒手空拳を極めた。武器も選び放題だろう?」
ゴルトにとっては、純粋に疑問に思ったから問うてみただけなのだろう。
だが、尋ねられた方には、思わず行動を止めるほどに破壊力のある質問だったらしい。
すでに扉にたどり着いてドアノブを握っていたセレは、ゆっくりとゴルトに向き直り、眉をひそめた。
開けるはずだったドアに寄りかかり、ゴルトを見つめる。
「……ガキの頃は、そのくらいしかすることがなかったからな」
「王族の子供ってのは、やっぱり遊ぶことも自由にはできねぇ、ってことか。だが、それにしたって、剣でも弓でもあるだろう?」
「そんな危険物は与えられなかったからな。
……少し昔話でもしようか。アザーク王国の王家にのみ伝わる言い伝えの話さ」
いまいち理解できない様子のゴルトに、セレは重い口を開く。
それを物語る以外に、他人に納得させられる理由をセレは持っていなかったのだから、仕方がない。
昔々、と始まった物語は、セレの出自にまで繋がるアザーク王国のトップシークレットだった。
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