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 ドルイドの姿が消えてからのその様子に、そもそも何故突然実力行使に出たのか、という疑問がようやく湧いてきて、ゴルトは、ん?と首を傾げた。

「もしかして、追い払ったのか?」

「だって、邪魔だっただろ?」

「……船長としては、肯定するわけにはいかないんだが」

「それは、肯定と同義でしょ」

 くすくすと悪びれることなく楽しそうに笑う。
 つい先ほどの迫力が嘘のようだ。
 牢から出してからずっとそばにいるゴルトは、この破天荒さにもいい加減慣れてきていたが、同席しているバリスとニナックは、セレの変わりようについてこられない。

 呆然と自分を見つめている視線を平然と無視して、セレはソファに踏ん反り返った。

「それで? 嵐をやり過ごしたら、どこに行くって?」

 尋ねた相手はゴルトなのだろう。
 他に気を使う相手もなく、ゴルトもまた、セレの隣にどっかと腰を下ろした。
 背もたれに腕を片方乗せて、斜めに寄りかかるその姿は、つい先ほどまでのセレの格好そのままだ。

「直接、アルタナの町へ」

「ちょっと寄り道して欲しいんだけど。それと、ついでに金も貸して」

「……はぁ?」

 同じソファに座ってお互いに顔を合わせての会話で、ゴルトは理解不能という表情で眉をひそめた。
 セレには、その言葉の根拠がしっかり筋道立って整理されているようなのだが、それがまったく伝わってこない。

 ゴルトに聞き返されて、セレは理解力のいまいち足りない相手に、もぅ、と膨れて見せた。
 理解力が足りないというより、付き合いが短くて、セレほどの政治的知識が足りないために、いまいちその思考傾向が読めないだけなのだが。

「俺を、姉さん誘拐を依頼した相手に引き渡すんだろ? この格好で連れて行ったら、一発でバレるぞ」

「……やっぱりそうか?」

 何しろ、髪が長いのも服がゆったりしているのも、アザークの国民に共通していたのだ。
 男も女も同じような格好だった。
 したがって、ゴルトには、セレに女装をさせる必要性が感じられなかった。
 だが、その文化の中で生きているセレには、男女の違いがやはりわかるようだ。

「だが、アザークの服装ってのは大分独特だったからなぁ。他の町じゃ手に入らんぞ」

「女性に何日も同じ服を着させる? 着替えをこっちで用意するだろう?」

「お姫さんらしく着飾らせれば良いのか」

「まぁ、大体の典型的な荒くれ男ならそうするだろうね」

 自分自身が海賊であると、一般市民が考える海賊像に想像が至らないのか、セレに誘導されてようやく納得した。
 そして、おもむろに立ち上がり、海図を見下ろす。

「バリス。次の目的地はスパスの町だ。こいつ以外の戦利品も捌くから、準備を頼む」

「良いけど、そいつは俺じゃなくてドルイドに言うべきじゃねぇのか?」

「大事な人質に手を上げたんだ。奴には船を降りてもらう。先代からの掟だ」

「アイサー」

 そもそも、船長の判断は絶対である。
 それに、バリスとしても、ゴルトが船長に決まった時から、あからさまに追い落としを画策するドルイドを良くは思っていなかったため、それ以上ゴルトの命令に反論する気は起きなかった。
 短く返事をして、下層へ降りる階段に続くドアを出て行く。

 居合わせてはいたものの、傍観者に徹していたニナックも、バリスが出て行ったのと同じドアから出ようとして、ゴルトに声を掛けられた。

「じいさん。こいつの世話を頼みたい。手伝わせたら良い、きっと役に立つ」

 こいつ、と指差したのは、当然セレだった。
 ニナックは、あいよ、と簡単に頷いて、今度こそ戸の向こうへ出て行った。





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