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 昼食がおやつには少し早いといったくらいの遅い時間だった事もあり、夕食は摂らずに名物のライティングパレードと毎晩上がるという花火を堪能して、帰宅客の波に呑まれながら園を出る。

 出た正面の朝待ち合わせた場所には三組の黒服の集団が待ち構えていて、嫌でも現実に引き戻された。

 全員被り物を着けたままだが、よほど違和感ないのか懸命に堪えているのか、誰もこれといった反応を示さない。

 迎えの一団の中には、仕事で参加出来なかった武人の姿も紛れていた。

『おかえりなせぇやしっ』

 組の上層部は仲良しでも、組同士がそうとは限らない。それぞれシマが離れている事もあり、協力も敵対もしていないというのが実情だ。

 そのため、迎えに来たそれぞれがそれぞれに自分たちの力を誇示するべく声を張り上げたおかげで、大合唱になってしまった。

 直後に七瀬、美岐、孝虎が揃ってため息を吐いてしまったのも仕方のないことだ。

「カタギさんのご迷惑になるだろう? 静かにしてろ」

 代表して苦言を呈したのは孝臣だが、雄太以外全員が組で発言力のある立場にある事もあって、みんなで同じように頷いていた。自分の上役に指示されれば逆らえないのが縦社会というもので、仕方なくみんな引き下がる。

 そうして組員たちが引いてから、武人が前に進み出た。
 
「おかえりなさい。貴文から伝言です。夕食の手配をしておいたから、皆さんご一緒にどうぞ」

 さすが七瀬が親友と認める若頭だ。配慮に卒がない。

 伝言を伝えてから改めて八人の格好を見回して、武人が苦笑を見せる。

「で、その違和感ないの、どうにかなりませんかね? 帽子は百歩譲ってOKとしても、男の子が獣耳似合っちゃダメでしょ」

 ようやくまともなツッコミが入って、七瀬はむしろ嬉しそうだ。警察官という肩書きでもこうして組員に紛れていられる度胸も、個性的な言動も、良い意味で公務員らしい生真面目さも、どれも人間的に好感が持てるポイントだと思うわけで。

 武人に言われてまず耳を取ろうとした雄太は、恋人の手に遮られて縦にも横にも一回り大きなその人を上目遣いに見上げた。むしろ雄太が一般人より一回り小さいのだが、仁自身も比較的体格の良い方なので相乗作用というところだ。

「せっかく可愛いんだから取るな」

 言葉は命令口調でも内容は砂糖菓子のように甘い。とはいえ、雄太が相手なら誰でも頷くだろう。そもそもツッコミを入れた当の武人本人が同意を示している。

「雄太くんは家まで是非ともそのままで」

「え〜? 俺はダメ〜?」

「三十路はさすがに自重してください。似合っちゃいますけど」

 さすがに上位組織の違う二人とは初顔合わせの武人だが、臆することなく受け答えをする。

 やっぱりさすがは貴文の恋人。度胸の良さは天下一品だ。

 迎えの各車に行き先を伝えてそれぞれに出発したところ、辿る道筋が四者四様だったのは、黒い車列が長く続かないように配慮した結果だった。

 手配済みの店は川崎の古くからコンビナートが立ち並んでいた一角にある、最近建ったのだろうと思われる真新しいホテルにあった。

 テーマパークで最後まで楽しんで首都高湾岸線を走り抜けて、時刻は相応の23時。ホテルの一階に並んだコンビニや喫茶店などのリーズナブルな料金帯の店舗ですらすでに閉店している。ましてやホテル内のレストランは言わずもがな。

 案の定店前には時間外を知らせる看板が出ている。

 だが、その看板の隣に何食わぬ顔で貴文が立って待っていて、後方の店に少し入ったところには支配人と名札を付けた四十がらみの細身の男性が待ち構えていた。

 このホテルのオーナーは大倉七瀬。つまり、大倉組の持ち物だ。だからこそ、こんな遅い時間に店を開けさせるという無茶もできる。

 八人揃っていることと彼らを守るように最後尾に現れた自分の恋人を確認して、貴文は支配人に案内を指示した。

 オーナーへの余計な挨拶は一切せず、客の全員に来店の礼を述べて店内へ促す。礼を尽くしつつも過剰なごますりはしない彼の態度が七瀬に重用された理由だ。こんな遅い時間に大勢で押し掛けても詮索しない心遣いは、事前に貴文から情報を得ていたにしても感心に値する。

 店内は貸切状態のため、個室も用意された店ではあるが、店内でも景色の良い窓際に三テーブルを寄せて席が用意されていた。

 店そのものは中華料理店だが、和洋中の各店舗が営業を終えていることで料理人は皆手が空いていたし、それでも翌日の仕込みなどで忙しいだろうから、家庭料理的な大皿料理を各店から提供するようあらかじめ依頼してあった。

 そのため、洋風前菜盛り合わせに中華料理的なとろみの玉子スープ、青椒肉絲、肉じゃが、刺身盛り合わせ、チキンソテーにサラダ、デザートに和洋中一品ずつといった、種類はてんでバラバラなのに前菜からデザートまで取り揃えたラインナップが提供された。

 すでに並べられていた食卓に、懐石料理がメインのレストランである違和感も気にせず嬉しそうに雄太が控えめな歓声をあげた。量は相変わらず食べられないが、こうして取り分けるスタイルならばいろいろ食べられるから、最近少し食い道楽気味の雄太である。

 周囲の大人たちが雄太をもう少し太らせようとして、食事を雄太中心に考えるせいかもしれない。

 さすがに高い金額を取るだけあって家庭的料理でも味わいが深く、舌の肥えた彼らを十分満足させる内容だった。

「で、貴文。ツッコミは?」

「……あぁ。いや、雄太が可愛いから、後は別にどうでも。雄太、お前これからそれ標準装備ってどうよ」

「それはさすがに勘弁してください。恥ずかしいです」

 誰彼かまわず大倉組の面々全員に可愛がられている雄太は、貴文も例外ではない。白い猫耳はコスプレマニアでなくても琴線を擽られるらしい。

 恋人のそんな発言は聞き捨てならないと思いはするものの、武人自身が深く頷く事実なので否定もできず。他の面々もそこで否定の声を上げる気はないらしい。猫耳を付けっぱなしの本人だけがガクッと項垂れている。

 食事を終えた後は、泊まることができるように部屋も確保されていたが、それぞれ思う通りにということで流れ解散になった。

 住吉夫妻は翌日に予定がなかったため好意を受け、結城夫妻は翌日にはずせない仕事があるからと申し訳なさそうに帰っていった。

 大倉組の面々も、客を見送ってからはそれぞれの自宅に帰っていく。

 こうして、彼らの遅いゴールデンウィークは幕を下ろすのだった。





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