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 指定のホテルを見つけて人気のない近くの公園の茂みに下りると、シンは虹色に輝く羽毛を脱ぎ捨てて人の姿に戻った。着ていた服がそのままなので、どんな原理なんだろうとハンペータがまたもや首を傾げる。

 ホテルまでの道のりの途中に、割高ながら材料に拘った美味しいハンバーガー屋を見つける。

「お、ナチュラルバーガーがあるじゃん。飯食ってないから腹減ってんだよね。半平太君たちは夕飯は?」

「いえ、まだですけど」

「じゃ、一緒に食べよう。奢るよ」

 空中散歩の間にお互いに経緯を打ち明けあっているため、現在シンがファンタジー世界に住んでいることはわかっている。奢るといってもどうやって、と首を傾げたハンペータに、シンはひらりと紙幣をひらめかせて見せた。

「実家からくすねてきた。どうも、叔父みたいにふらっと帰ってくんじゃないかって期待でもしてるみたいで、俺の部屋そのまんまでね。突然連れ去られたもんで部屋散らかしっぱなしだったのもそのままだから、ありゃ、ただめんどくさくて手をつけてないって可能性もあるけどな。くすねてっても、元々俺のバイト代だし、気付かねぇだろ」

 もしかして持って帰れるかもしれないから、といって見せてくれたのは、肩掛けしていたスポーツバッグに入った二台のカメラと大量のフィルムだ。それに、子供向けの技術誌にカメラ雑誌が数冊。カメラが余程好きらしい、と思われるラインナップだ。

「帰り時間はわかってるんだしな。肩掛けしとけば一緒に持って行けるかと思って」

 可能性としては半々くらいに考えているようだ。

 お誘いを断る理由もなく実際お腹も空いていたハンペータは、遠慮なくその誘いに乗った。そのままでは連れ歩けないルフィルに他人の視線を逸らさせる術をかけて、四人は連れ立って公園を出て行く。

 色々な種類のハンバーガーにサラダを二皿、ポテトフライとオニオンリング、それにフレッシュジュースを四つ買い求めて、二階席の端にあったボックス席に陣取る。サラダの一皿をもう一皿に無理やり移して皿を空け、そこに飲み物を移してルフィルが飲みやすいように工夫するのは、シンの作業だ。何をするのかと見守ってしまったハンペータが礼を言う。

「さすがにストローじゃ飲みにくそうだしな。ハンバーガーは普通に食えるのか? かぶりつきだと食いづらくねぇ?」

「大丈夫ですよ、僕が適当に千切りますから」

 言う通り一つハンバーガーを開いて一口大に契りルフィルの口元へ差し出す。ルフィルもまた何の不思議にも感じないようにパカッと口を開けてそれを迎え入れた。

 まるで新婚カップルの、あ〜ん、のようで見ている方がちょっと恥ずかしくなる光景だ。

「ラブラブだなぁ」

「え? ……あぁ、すみません」

「いや、必要があってやってることだし、別に良いんだけどな」

 そもそもその感想に続くのは、気恥ずかしい、ではなく、羨ましい、だ。人前だといえば確かにその通りなので今この場で強請ることはないが、二人きりでもあまり甘い雰囲気になってくれない生真面目な恋人に、不満がないわけではないのだ。ただ、恋心が冷める要因にはならないだけで。

 一つのハンバーガーを二人で分け合って二つ分平らげるハンペータたちに和まされながら、この世界と自らが飛ばされていった世界の比較をお互いに披露しつつ田舎自慢に明け暮れて、店を出たのはさらに夜が更けてからだった。

 目的地であるホテルは二人とも同じで、指定された部屋番号も隣同士。おやすみを言い合って扉を開けるまで同行になるようだと、この世界出身の二人は苦笑を交換し合った。

 フロントで名前と部屋番号を言えば、何の疑いもなく部屋のキーが差し出される。その時に添えられた言葉に、二人とも耳を疑った。

「最上階スイートルームとなります。ごゆっくりおくつろぎくださいませ」

 本当にこの旅は至れり尽くせりだ。

 この世界を発つのは翌朝七時。つまり、お互いに与えられた部屋に篭ってしまえば、もう二度と会えない運命だ。

「せっかくお会いできたのに、寂しいですね」

 エレベーターで指定の階まで昇りながら本当に寂しそうにそう言ったハンペータに、すでに弟のような感覚になっていたシンはその頭を撫でて宥める。

「何事も一期一会さ。貴重な体験だった。ありがとな」

「いえ、こちらこそ。楽しい時間でした。ありがとうございました」

 名残惜しく廊下を進む足取りもゆっくりになったが、結局は別れが訪れる。先に扉にたどり着いたハンペータが、扉の鍵を開けて先にルフィルを中に入れ、自分は振り返ってまた頭を下げる。

「おやすみなさい」

「良い夜を」

 目線で頷き返すシンの隣で、結局寡黙を貫いたリャンチィが深く頭を下げ返していた。





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