若手作家の対談

 最近、時代小説の分野にオシメも取れていないような小僧が増えた、とある大御所作家が嘆いたことがある。

 とある小説雑誌のコラムでの話だ。

 このコメントに対して、あまりにも批判が多く、翌号では、ファンから寄せられた抗議の手紙が多数掲載され、この作家が謝罪のコメントまで発表した。

 他の報道機関に取り上げられることもなくこの雑誌内で片がついた話だが、こうして注目されたことを逆手に取り、雑誌の編集部ではそのさらに翌号に向けて、ある企画を立ち上げた。

 それが、おそらくはこの大御所作家が指していたであろう、若手作家二人の対談企画だった。

 一方は、高校二年生でデビューして以来、ゆっくり着実に売り上げを伸ばす短編時代小説作家。名を土方等という。今現在は大学生だ。

 もう一方は、中学三年生でデビューして以来、三本のシリーズを抱えている長編時代小説作家。名を海藤太郎という。今現在は高校二年生だ。

 扱っている時代は、片や江戸時代、片や平安時代と違っているのだが、異性に限らず同性同士の恋愛を題材にすることが多いことや、現在学生の立場であることなど、共通点も多いので、対談の議題には困らなかった。

 かくして決定した題名は、ずばり『学生作家』だった。

 趣旨を理解はしたものの、学生作家を二人並べて対談させたところで、客観的な意見など出るはずもなく、仕事に割く時間が足りなくて、という苦労話に終始していた。

 用意された時間は一時間。しかし、提供されたネタに対して二人とも独自の論を展開し、似たような立場だからこそ意見も似たようなもので、議論が発展することもなく、あっという間に終わってしまった。

 これを編集するライターの苦労は推して知るべし、だ。

 雑誌社の会議室を後にして、見送るという雑誌社の担当者を断り、正面玄関を出たところで、二人は同時に立ち止まった。

「丁度おやつの時間だし、甘いものでもいかがです?」

「良いですね。連れがいるんですが、一緒でも良いですか?」

「どこかで待ち合わせでも?」

「そこのコーヒー屋で待ってます」

 そこの、と太郎が指差したのは、海外からやってきた有名なコーヒー専門店だ。二階の窓際にいる彼がそうであるらしく、読んでいたらしい文庫本から目を離してこちらを見守っていた。

「彼氏?」

「ありゃ、バレました?」

「優等生タイプだね」

「実際、優等生ですよ。絵に描いたような」

 ひらひら、と太郎が彼に手を振ると、彼は文庫本を片付けて立ち上がった。こちらが店の前に着いた時には、階段を下りてきた姿が見えた。

 比較的痩せ型で背の高い彼は、真面目さが外見ににじみ出ているタイプの青年だった。初対面の宏紀に対し、ペコリと頭を下げる。

「甘いもの食べに行こう、って言ってたの。良い?」

「あぁ。任せる」

「土方さん、和菓子と洋菓子どっちがいいですか?」

「上野に美味しいフルーツパーラーがあるんだよ。そこで良いかな?」

「良いです! 最高!」

 行きましょ行きましょ、と太郎が嬉しそうに駅に向かって歩き出し、宏紀も正史もその姿を見守って後を追いかけた。隣に立つ正史を見上げ、宏紀がにこりと微笑んでみせる。

「可愛いよね、加藤くん」

「ガキっぽいだけですよ」

「そこが可愛いんじゃない。大丈夫、警戒しなくても、彼氏だって聞いてるよ」

「……驚かないんですか?」

「俺もご同類」

「あ。なるほど」

 スキップしそうに浮かれている太郎は、どうやら背後の会話に耳を済ませていたらしく、一人で勝手にくすくすと笑っていた。




 辿り着いたフルーツパーラーで、三人は揃ってパフェを頼む。太郎は南国フルーツがメイン、正史は酸っぱい系の柑橘類がメイン、宏紀はベリー系がメインで三者三様だが、どれもおいしそうだ。

 注文の品を待つ間に、そうそうそういえば、と太郎が話し出す。

「先日は、友人がお世話になったそうで」

「ご友人?」

「えぇ。佐藤文也と斉藤優。聞き覚えありませんか? 名乗ったって聞いてますけど」

「あ、あの、明るい髪の色で小柄なのに滅茶苦茶喧嘩の強いあの子かな?」

「そうそう、それです。高校の同級生なんですよ。すごい偶然ですよね」

「すごい偶然だね。世の中狭いなぁ」

「ホントに」

 地元が近いとはいえ。友人から聞いたときに驚いていたから今更感動も薄いが、それでもしみじみと太郎は頷いた。宏紀も、へぇ、と感心した様子だ。

「そうか、全寮制って言ってたっけ。地元が近いのかな?」

「沿線なんですって。お土産にケーキを買いに途中下車したら偶然ばったり、だそうですよ」

「駅からあそこを通ってケーキというと、あそこかな。お目が高い。あそこのケーキは俺も好き」

「なんか、美味しいケーキ屋さんを開拓してるらしいんで、他にもご存知でしたら教えてもらえません?」

「うーん。いろいろあるよ。今度リストアップしてメールしようか?」

「良いんですか?」

「贔屓の店が流行るのは常連として嬉しいことだしね。宣伝してあげるよ」

 メルアド教えて、と、先ほど交換した名刺を取り出す。それと同時に、注文していたパフェも運ばれてきた。

「わぁ、おいしそう〜」

 甘いものが大好きな太郎のはしゃぐ姿に、宏紀は弟でも見るように目を細める。

「今度はまた別のところに連れて行こうか」

「是非お願いします〜♪」

 太郎自身も、弟の自覚があるのか、遠慮せずに甘えて見せるので、それは小気味良いほどで。

 二人の会話を、完全に部外者と化した正史は、だが、嬉しそうにニコニコと笑って見守っていた。

 作家の仕事を辞めない限り続く長い付き合いだ。良い関係ならそれが一番。

 めいめいに自分が注文したパフェにスプーンを入れ、自然と無口になる。幸せの一時が彼らを包み込んでいた。





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