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 そもそも、一度結婚していることでもわかるとおり、貢は元々ノンケで、高宏に惚れられて道を踏み外したわけで、高宏の方から「してほしい」と誘ったのだから、その立場が逆転するわけがなかったのだ。

 高宏とて、貢と比較するから体格よく見られるが、そんなに筋肉質なわけではないし、だからといって中年太りとも縁のない、普通の健康体である。実は高宏の好みは自分より大きい相手で、貢は真逆を行っているわけだが、これで意外と相性が良い。もちろん、ベッドでの相性も。

「……え? こら、ちょっと待て。まだ食事中〜」

「俺はデザートが食いたい。お前、食うの遅いよ」

「もう。この、オヤジ。エッチくさいよ、言い分が」

「だって、エッチのお誘いだろ?」

 ほらほら、さっさと食わないとベッドに連れてくぞ。そんなとんでもない脅しで高宏を急かして、貢は高宏の背中に抱きつき、首筋に噛み付いている。吸血鬼でもあるまいし、と思うのだが、これがなかなかどうして力加減のツボをわきまえていて、甘く噛まれると背筋がぞくぞくする。

「んっ。ダメ……」

「もう食わねぇの?」

「貢が邪魔してんだろぉ。……あんっ。こら、やめろって」

 ちなみに、繰り返すが彼らの年齢は40代。それも、半ば。10代の若い盛りでもあるまいし、と思うような積極性で、貢も高宏も甘い攻防を繰り広げる。いい加減飽きないだろうか、と不思議になるくらいだ。

 それにしても、高宏の反応の悩ましいこと。この反応なら、同性に興味がない相手でもコロリと落ちるだろう。実際、貢もこの口だ。

「気持ち良い?」

「……だから、食事中だってばぁ」

 抗議しながら、もうすでに箸は動いていなくて、貢にすっかり身を預けてしまっている。そんな言動が一致しない恋人に、貢は楽しそうに笑うのだ。

「な。デザート」

「オヤジっ」

「実際オヤジな年だぞ、俺たち」

「うるさい。年言うな」

 これでも気にしてるんだ、と高宏が言うのに、貢はケラケラと楽しそうに笑って返す。同い年では気にする方がどうかしている。そりゃ、若い子の方が嬉しいには違いないが、貢にとっては恋人といえば高宏だけだし、そもそも男など、この相手以外には考えたくもない。

 ふと、貢が攻撃の手を休めて、高宏の背中にもたれる。その隙に、高宏の箸が再び動き出す。

「なぁ、高宏」

「……ん?」

 もぐもぐと口を動かしながら問い返すのに、その食欲にくすりと笑った貢だったが、それからぎゅっと抱きついた。

「高宏は、俺よりも若い子が良い?」

「……さっきから、どうしたんだ? 俺が浮気してるとでも疑ってる?」

「そういうわけじゃないんだけどさ。なんとなく、嫌な予感っていうか。俺の予知って意外と当たるんだよ」

 だからさ、と言葉を濁す貢に、高宏は軽くため息をつくと、口に入れていたものを飲み込んで、彼氏を振り返った。軽く啄ばむようなキスをする。

「浮気なんかしないよ?」

「わからないよ。高宏って、貞操観がちょっと怪しいもん」

「……何で?」

「俺と簡単に寝といて、良く言う。俺が出張してるときなんて、新宿2丁目通いつめてたんじゃないの?」

「……否定しないけどね」

 二人の間ではちゃんと話ができているらしく、どうやら一夜のお相手程度なら浮気に含まれないらしい。貢の疑いの目に高宏は誤魔化さずに肩をすくめ、貢もまた仕方がなさそうにため息をついた。

「遊びなら許すけど、本気になったらダメだぞ。本当は、俺以外の男に触らせたくないんだから」

「わかってる。……ごめんな、節操なくて」

「ホントだよ。いつになったら落ち着くのかね」

「一生、かな?」

 これ、ほとんど病気だから。そんな風に言って、高宏は申し訳なさそうに頭をたれた。

 実際、高宏の倫理観貞操観の欠如は、病気に近い。貢と付き合い始めてからは、最初のうちは貢一人でなんとかなっていたのだが、職位が上がるにつれて別行動が増え、1ヶ月以上離れることも多くなり、高宏が自傷行為に走った事があってから、ストレス解消に、との目的で黙認が下りたのだ。

 普通の男なら、もやもやが溜まったら自慰行為で何とかしてしまうはずなのだが、高宏の場合それでは物足りないくらいになってしまっていて、一人ではどうしようもないのだという。本人にも手が施せない、というのは困ったことだ。

「な。しよ?」

「後で続き食わせてよ?」

「食い意地張ってんだから」

 どっちがだよ、と突っ込みを受けながら、笑って誤魔化して、貢は高宏に口付ける。二人は、もつれ合いながらベッドルームへ移動していった。





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