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 実は、芳巳と竜太の出会いは、学校とは全く関係の無いところだった。

 病院の中なのである。

 二人とも、当時小学校の三年生だった。

 芳巳は、当時本当に体の弱い子供で、入退院を繰り返していた。理由は小児喘息。それと、喘息がちで友達を作れないことによる鬱病から派生した関節痛。酷いときは、ベッドから立ち上がれないほどなのだ。身体には特に異常は認められないのに。

 反対に、竜太は今の様子から見てわかるとおりの健康優良児だった。健康すぎて無茶な遊びに明け暮れた挙句、登った木の枝が突然折れて、転落したショックで複雑骨折をわずらった。そのせいでベッドに縛り付けられてしまったのだから、かわいそうといえばかわいそうだ。

 そんな二人の出会った場所は、病院内のリハビリ施設だった。

 誰とでも仲良くなれる事が自慢でもあった竜太は、当然のように、病院内で唯一同い年だった芳巳に話しかけ、芳巳もその熱心さにほだされて、お友達になっていた。

 当時から、二人の関係は同じなわけだ。

 次に二人が再会したのも、これまた学校とは無縁の場所だった。

 二人は、中学一年生になっていた。

 竜太はすでに、宏紀の取り巻きの一人になっていて、その時はゲームセンターの帰りだった。

 芳巳が、誰かに追われて走っていたのである。

 必死な表情で走る芳巳が、竜太から見れば呆れるほど足が遅くて、追ってきている人から逃げられるとは到底思えず、竜太は珍しく親切心を発揮した。わき道に引っ張り込み、助けてやるから黙ってろ、といって、その大柄な身体で芳巳を隠してやったのだ。

 追ってきた相手がどう見てもやくざ崩れだったのにびっくりはしたものの、何とかやり過ごして助けてやった相手を振り返り、竜太はそこではじめて、病院で友達だったヨシ君だと知った。

 そのときの芳巳は、小児喘息こそほぼ治ったものの、鬱病は相変わらずで、そんな心の病気から逃げるように、まだ幼さの残る身体を売っていた。追ってきた相手は、芳巳を買ったチンピラだった。

 そういう店に売られそうになって逃げ出したと聞いた竜太は、芳巳をしかり、もうしないと言質をとった。それ以来、二人の友情は途切れることなく続いていた。

 竜太が芳巳に対して、友情とは別の感情を抱くようになったのは、それからさらにしばらく経った、中学三年生の春だった。尊敬する先輩の宏紀が、男の恋人と付き合っていると聞いて、余計な妄想を働かせている過程で、自分の気持ちに気付いた、というところだ。

 最初は、勘違いだと自分をいさめた。その程度には、竜太も大人になっていた。だが、友達としてつるんでいる内に、竜太の気持ちは際限なく膨れ上がり、のっぴきならないところまで成長してしまったのだ。

 それが、竜太が芳巳と同じ高校に入ろうと頑張ったきっかけだった。

 そして、現在。

 芳巳は竜太の腕の中にいた。

「本当に、良いのか? 同情してるだけなら、無理しなくていいんだぞ?」

「……バカ。良いって言ってるだろ」

 結局、こうして抱き合ってこそいるものの、二人の距離はここまでしか縮まっていない。

 何しろ、ちょっと前まで諦めていた気持ちが、突然壁を通り抜けてしまったのだ。戸惑うなという方が無理だったろう。

「あのねぇ、竜太。びっくりしてるのはわかるけど、いい加減にしないと前言撤回するよ? 俺」

「だって、ホントに、つい一時間前まで諦めてたんだぞ」

「はいはい。俺が悪かったよ。だから、いい加減腹くくれって」

 そうは言っても、と、まだ情けない表情を見せている竜太に、芳巳はため息をつく。情けない、と思うのに、嫌いにはなれない。しょうがないな、と思ってしまう。

「なぁ、竜太。俺のこと、まだ好き?」

「……もちろん。当然だろ」

「じゃ、キス、してよ。俺も、竜太が好きだから……」

 ね、と促すまでも無かった。貪りつくように竜太の唇が芳巳を襲い、強く吸い上げる。ん、と芳巳の喉が声を上げ、それが嫌がっているわけではない証拠に、その細い腕が竜太の太い首にかかる。

 その口付けが、いつの間にか止まらなくなって、すがり付いてくれる芳巳を強く抱きよせた。本能のままに、ソファに押し倒すのに、芳巳も何も抵抗せずにされるがままになる。

 キスをしたまま、芳巳を抱く手の片方がその居場所を別に求めはじめ、着たままだったブレザーのボタンをはずし始める。

「……んふっ」

「ん?」

 何か言いたそうに芳巳が声を上げたので、ちょっと離れて、顔を覗き込んだ。とろん、と潤んだ瞳が殺人的に艶かしい。

「……ここじゃイヤ。ベッド、行こ?」

 その先を、まるでねだるような台詞で、竜太の下半身が勝手に反応した。もうすでに感じ始めていたのに、痛いくらい敏感に脈を打つ。

 それが、男同士だからこそ、布越しにわかるのだろう。くすくすと芳巳は嬉しそうに笑った。

「遠慮、しないでね。竜太はこんなこと言うと怒るけど。俺、慣れてるんだから」

「わかってるけど、ダメ。芳巳が身悶えるくらい丹念にご奉仕させていただきます」

 ヤダ、もう。

 そう、恥ずかしそうに呟いて、さすがに耳まで真っ赤になって、竜太の胸に顔を隠す。そんなかわいい反応に、竜太は何故だか嬉しそうに笑い、芳巳をぎゅっと抱きしめた。

 芳巳の体が軽いとはいえ、軽々と抱き上げられて、芳巳は竜太にしがみつく。竜太は、受験勉強をほとんどこの家で一緒にしていたおかげもあって、勝手知ったる他人の家とばかりに、迷うことなく芳巳の部屋へ入り、ベッドの上にその身体を横たえてやった。

「恐くないのか?」

「竜太が? 冗談やめてよ。竜太以外に安心できる相手なんていないよ」

 だから、もっとちゃんと欲しがって。そう囁くように言って、竜太を引き寄せる。引き寄せられるままに、竜太もまた、芳巳にその身体を預けた。





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