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 そこは、学生の昇降口に最も近い、通用口だった。

 ほとんどそこを塞ぐように、まったく見ず知らずの若いチンピラが五人タムロっていて、部活のない学生が昇降口辺りに集まって、困ったようにそれを眺めている。

 その集団の中には、教師の姿もあった。

 校舎の端から竜太と芳巳が現れても反応をしないということは、まだ面識がないのだろう。そう判断して、宏紀はそこにいた教師に近づいていった。三人いた教師のうちの一人が、昨年の担任だったのだ。

「戸塚先生?」

「おぉ、土方」

 久しぶりだなぁ、元気か?などと、ほぼ毎日顔を合わせていながら元気に問いかけるのは、体育会系の教師ならでは、だろう。今年の担任こそ違うものの、この性格で何故か社会科の教師である彼は、二年生の日本史教諭なのだ。

 反対に、まったく面識のない竜太と芳巳は、宏紀の背後に控えて軽く頭を下げた。

「何事ですか?」

「ん? なんでも、うちの一年に用があるらしい。だからと言って、学校側としては取り次ぐわけにもいかんしな。今回は土方とは関係ないらしいぞ」

「……今回は、ってどういう意味ですか」

 若干引っかかる物言いに、すかさず宏紀が突っ込みを入れる。はっはっはと戸塚教諭は笑った。

「いや、冗談だ。しかし、困ったな。どうすべきか」

 うーむ、と悩みだす戸塚教諭に、宏紀は学校側の現状を読み取り、軽く肩をすくめる。そして、後輩二人を振り返った。

「先生。俺、何とかしようか?」

「……土方。お前、もう問題起こすなよ。素行不良で進学できなくなるぞ」

「だから、学校側が目をつぶってくれればいいんでしょ? 取引、取引。警察沙汰にするより確実だよ」

 昨年の今頃なら、こんな口を利いたら、即、叱られていただろう。だが、宏紀はあの騒動の後、積極的に学校行事に参加したことで、教師の信頼を得ることに成功していた。だからこそ、呆れて見せられるだけで済んでいる。こんな学校でこの反応、宏紀の昨年の苦労を察して、竜太と芳巳は顔を見合わせた。

「……本当に、大丈夫なんだな?」

「ホントに困ってるんだね。まさか、取引に応じてくれるとは思わなかった」

 取引を提案しておいて、教師からの返答に宏紀はびっくりしてみせる。それから、任せといて、と頼もしく胸を叩いた。そうは言っても、背も低く比較的痩せた印象の宏紀がやっても、あまり頼りにはならなさそうなのだが。

「竜太、行くよ」

「はい」

 促されて竜太も宏紀の背後につく。それから、芳巳に軽く目配せをした。視線を受けて、芳巳も頷く。





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