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「水谷ってさ。自分が理解できない趣味の人って避ける人?」

 自分のことは話し終えたつもりのようで、小池がそう、水谷に話しかける。河坂も、宏紀の味方になる、と言った言葉を違えるつもりはないようで、不安そうに水谷を見た。

「何だよ、それ。何が言いたい」

「東大に現役で受かったその立派な頭で考えてみなよ。これだけは言える。俺たち3人とも、土方の趣味じゃないよ。な?」

「恋愛対象には、間違ってもならないよ。多分」

 珍しく歯に衣着せずに、そう断言する。その宏紀の発言に、またもや水谷がむっとした顔をする。

「それは、それほどの価値もないってことかよ。間違っても、なんて、本人に言うか?」

 好きになっても、ありえなくても、気に入らないらしい。その反応に、宏紀は困った顔をし、河坂と小池は顔を見合わせて笑った。

「お前、小学生じゃないんだから、そういうわがまま言うなよ」

「間違ってもそういう対象にならないなら、安心して友達できるじゃんか。自分には関係ないって太鼓判押されたようなものなんだぞ。何が不満なんだよ」

 なあ、と二人に同意を求められて、宏紀が戸惑ってしまう。反応できないでいるうちに、水谷が顔を真っ赤にして立ち上がった。
 河坂にも小池にも笑われて、一般論のはずなのに誰からも同意を得られないことがまず理解できなかった。そして、大人しそうに見える、実際今までは大人しくてさっぱり目立たない存在だった宏紀が、そんなとんでもない人間だったということ、小池の意外な一面にも驚いてしまって、自分のついていけない範囲に物事が進んでいることにも腹が立ったらしい。

「どこ行くんだ?」

「帰るっ!」

「ミーティングは?」

「知らん」

 その辺に放り出してあったかばんを取って、ずかずかと部屋を出て行く。宏紀はそんな水谷を寂しそうに見送ったのだが、何故だか河坂も小池も楽しそうだ。

「俺、怒らせたかなぁ?」

「…何でよ。土方、お前、微妙に頭働いてないだろ。土方の反応が弱っちいのも、原因っちゃあ原因なんじゃねぇ?」

「河坂ね。そういう責めるような言い方するなよ。関係ないって。あいつ自身がついてこられなくて逃げ出しただけさ。明日にはけろっとしてるよ」

 河坂と小池が口々に勝手なことを言っている。宏紀はそれを聞きながら、そうかな?と首をかしげた。

「んで? 今日は迎えに来ないの? 彼氏」

 今日は、ということは、たまに忠等が大学の前まで迎えに来ているのを、小池はばっちり知っていたらしい。河坂には記憶にないようだが。

「小池って、何でそんなに俺の行動知ってるの?」

 ちょっとストーカー入ってないか?という行動把握で、宏紀はしかし、ただ不思議そうに首を傾げた。河坂も先ほどから小池を見つめている。あはは、と小池が軽く笑って見せた。

「帰りの方向、同じだからね。俺、駅一つ手前だもん。結構良く見かける。彼氏と楽しそうに笑ってるから、声かけづらくてね。っていうか、結構目立つんだよ。土方って美人だし、彼氏さんはかっこいいし」

 河坂も水谷も見かけたことくらいはあるんじゃねえの?と、小池は河坂に眼を向ける。言われて、河坂は腕を組んだ。そんな人物に覚えはないらしい。

「今日は来ないんじゃないかなぁ。月曜日はこのミーティングがあるから、帰りの時間合わないし」

「ミーティングのない日って、5時じゃねぇか? 帰るの。彼氏って、何やってる人?」

「公務員」

 他にはないだろ、という感じだが、答えたら、おお、という反応が返ってきた。

「国家公務員?」

「一応ね。専門職だから、そんなにすごくもないでしょ」

「専門職ならなおさらすげぇじゃんか」

 勝てっこないよなぁ、とぼやく河坂だが、何に勝つのかまではよくわからない。本人もわかっていないのだろう。

「んで? さっきから気になってんだけど。男4人ってどういうこと?」

 つっこまれないうちにと考えたかどうかは不明だが、河坂が突然話題を変える。言っている意味が理解できなかった宏紀が、首をかしげた。小池も首をかしげている。

「何の話?」

 聞いたのは小池だ。宏紀はまた眠気が襲ってきたらしく、目をしぱしぱさせている。

「ジャスコにいるんだろ? 男4人で」

 結構前の小池の発言のことらしい。それで、小池はあぁ、と気がついた。宏紀はその部分は聞き飛ばしていたらしく、まだ納得がいっていない表情だ。

「そうそう。土方と彼氏さんとあと二人。買い物中はたいてい4人で行動してるから良くわかるよ。彼氏さんと、もう一人の人って、結構背丈あるしね。あれって、誰? 片方は親父さん?」

 と、ここまで聞いて、ようやく、そういえば小池に目撃されていることを思い出した。そろそろ、また限界が来たのだろうか。

「うぅん。低いほうが父親で、高いほうは同居人。そんなに目立つ?」

「知ってる人だから余計ね。グループの中に女性がいなくて、年齢差が親子くらいってなると、珍しいし。お袋さんは一緒じゃないの?」

「うちは父子家庭だから。あれで家族全員」

 男ばかりだと気ままで良いよ〜、などと言って宏紀は笑った。あっさり出てきた『家族』という言葉を、今度は二人とも聞きとがめる。

「家族って事は、一緒に住んでるのか?」

「親に認められてんの? 男の恋人」

 二人に口々に聞かれて、宏紀は軽く笑って見せる。

「一緒に買い物行く時点でそうでしょ? うちの若旦那様だよ。まだ籍入れてないけど」

 答えて、ふわ〜っと大欠伸が出た。不思議なことだが、睡眠欲には波があるらしい。たっぷり眠っていても、その後まだ寝不足が残っていれば、一定時間後にまた眠くなるようだ。まだ、ミーティングが始まるまでは1時間あるが…。

「また、眠そうだな」

「寝ちゃいなよ。みんな来たら起こしてあげる」

 先ほどまでは一人だった番係が二人になっている。渋っていたら、小池が無理やり寝かしにかかった。と言っても、傍目にはただ押し倒しただけなので、襲いかかったようにも見えるのだが。河坂が手近にあった誰かの上着を身体にかけてやる。

「おやすみ」

 先にそう言われて、宏紀は困ったように軽く笑うと、素直に目を閉じた。





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