III-3




 松実と克等は制服のまま、駅前のデパートへ買物に出掛けた。クリスマスのプレゼントを交換しあうのだという。仲の良いことで、と宏紀は皮肉ってやったが、果たして皮肉と受け取られたのかどうか。

 忠等は、落ち着かないからと先に帰ってしまっていて、宏紀が家に帰り着いたころ電話を掛けてきた。先に帰ってごめん、と。律儀な人なのだ。

 それは笑って許して、それより、と話し掛ける。

「もし受かってたら、家に来て。明日じゃなくて、明後日ね。約束だったでしょ? 一日好きにしていいって。待ってるから」

『結果わかるの、明日だよ?』

「だから。発表の日ぐらい、家にいなくちゃ。ご両親も心配なさるだろうし。ね?」

 電話の向こうで苦笑したのがわかった。宏紀も笑った。

『わかった。スタミナつけとけよ。離さないからな』

「忠等こそ」

 笑って言った忠等に宏紀が笑って答えて。大丈夫。受かっている。宏紀はほとんど確信に近い感じを得ていた。突然興味を持って突然書いた論文で、文部大臣賞を取ってしまうような人だ。心配は要らない。そう思った。

「忠等」

『ん?』

「愛してる」

『ん』

 愛してる、とは返されなかったが、同じ意味のこもった返事で、宏紀は幸せそうに笑った。

 それから、何を思ったか、突然その笑いをいたずらっぽい笑いにかえた。電話線の向こうで、忠等が驚いている。

「今日、三人でパーティーなんだ。これから作るの。えへ、いいでしょ」

『いいなあ。食いに行こうかな』

 それは、本気で言われた言葉だった。無理は承知で、もちろん、本当に来るわけはない。宏紀は何も答えずただ笑った。それから、また愛の言葉をささやきあって、電話は切れる。

 受話器をおろして、宏紀は嬉しそうにくすくすと笑った。




 忠等は見事に合格していて、二十六日、一日遅れのクリスマスを二人で過ごした。

 宏紀はクリスマスのプレゼントにと買っておいた十八金の細いリングを贈った。忠等が眠っている間にひそかに指のサイズを測っておいて買ったもので、左手の薬指にぴったりだった。忠等はただただ驚いていた。

 浮気しないように、誰にも取られないように。そういった願いがこめられていた。すでに親も公認の仲だ。いつでもつけているようにする、と忠等は誓った。




 いつのまにか年が明け、三学期が始まる。

 日々は淡々と流れていった。行き先の決まった忠等は、宏紀の手伝いをしていた。おかげで宏紀一人では見えなかった欠点が浮かび上がってきて、より難度の高いつっこんだ練習が出来るようになった。

 練習内容も、基礎から自らの目標にあわせた応用まで幅広くなった。来年の大会にはさらに上の順位が期待できそうである。





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