II-3




 次の日、二日酔いの頭を抱えながら部活に顔を出すと、嬉々とした顔で松実が走りよってきた。そこではすでに準備運動も済ませ、練習試合をしようとしているところだった。宏紀は一度停学処分を受けたことで職員室に呼ばれていたのだ。

「ひろ、今日体育あったよね? 悪いけど着替えて。メンバー足りないんだ」

「……やっぱり?」

 はあ、と溜息をつき、肩を落とす。まさか女子にサッカーをやらせるわけにはいかないから、と仕方なく部室に走った。宏紀は滅多に着替えないので、着替えるときはたいてい部室なのだ。更衣室よりこちらの方が近いのだから仕方がない。

 そもそも、宏紀はサッカーをするのは好きである。大好きである。なぜしないかといえば、疲れて家事をする気力もなくなるからで、体力的に無理があるからなのだ。

 以前克等に会ったばかりの頃、冗談めかしていっていたが、それが本当の理由だった。
 遊びでやる分には疲れないが、部活動として真面目にやると疲れてしまうのである。しかも、あまりやりすぎると、骨折した足が痛むのだ。これは本当にどうしようもない。

「もう、今日の夕飯どうすんのさ。そりゃあ、少し汗かいたほうがアルコール抜けていいんだけどさ。あんまり走らせないでよ」

 ぶつぶつ文句を言いながら、あちこち軽く伸ばしてほぐしながら、宏紀が歩いていく。

 辿り着いたところでキックオフとなった。宏紀が入れさせられたのは、松実や川原部長のいるチームだった。克等は敵側である。松実は特訓の力試しにディフェンスに回った。宏紀も何だかんだ言いながらゴール前に立っている。

 先にゴール前まで攻め入ったのは克等だった。止めようと松実が待ち構える。

「まっちゃん、勝負だっ!」

「望むところっ!」

 ディフェンスのコツは宏紀が教えた。克等にフォワードの在り方を教えたのは松実だった。直接教えたわけではなく、見て盗んだのだが。よって、技の段階では五分と五分。どちらがうまく使えるかが勝負の決め手となる。

 しばらく攻防を見ていた宏紀は、突然、勝負あったなと呟いた。克等の横に相沢が走り寄ってきたのだ。克等にとっては味方の。
 松実が気付く間もなく、ボールは克等の足から相沢の足へ流れ、相沢はそれを持ってさらにゴールへ向かう。克等の目は少しも動かなかった。松実が無意識に教えた宏紀式ディフェンスの抜き方だった。

 相沢は二人から離れ、宏紀と対峙することになった。

「ディフェンスを極めれば、攻め方もおのずと見えてくる」

 こうやってぼそっと一言助言するのが、宏紀のコーチの仕方だった。こういう教え方だから、自分で解決策を見いだし、身体で手に入れて、忘れないでいられるのだ。なかなか良い教え方だ。彼らにとっては、かも知れないが。

 宏紀は本気な目で相沢を見据えた。本当に本気でディフェンスをするつもりらしい。さて、どうやって抜いたものか。相沢は悩んでいた。運動の神経はボールの維持に集中しながら。すると、後ろから先輩の声が聞こえた。結構近くに走ってくる音もする。

「相っ! こっちだ!」

 わかった! きらん、と頭で何かが光った。相沢は宏紀から目を離さず、ちらりとも後ろを見ず、自分の股の間からボールを転がした。

 味方を信じる。それが相沢の得た答だった。走り寄ってきた先輩は、うまく転がったボールを取ってシュートする。キーパーの手を擦り抜け、ボールはゴールネットを勢い良く揺らした。

「わかったみたいだね」

「ひろのおかげさ。自分でも驚いてる」

 答えて、相沢は走っていく。宏紀は軽く肩をすくめた。一点取られちゃったな、と。





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