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 II


 夏休み最後の日曜日。宏紀と松実は、祝瀬家の門をくぐっていた。もちろん東京の家である。

 何故日曜日かといえば、宏紀が家事を大人組にすべて任せられるのが日曜日しかなかったからだ。

 祝瀬家は、新興住宅街の、どこも同じような家が並ぶ中の一つだった。両親には宏紀や松実の家の事情を話してはある。話してはあるが、どこで彼らを傷つけてしまうかもしれないのが、祝瀬兄弟には心配でしょうがない。

 宏紀や松実が祝瀬家に現われたのは、まだ昼すぎだった。

 玄関に立った松実は、迎えてくれた祝瀬兄弟の母、克美を見上げて、思わず耳まで真っ赤になってしまった。赤面症はまだ治っていないらしい。

 一度慣れてしまえば何ということはないのだが、人見知りが激しすぎるのだ。宏紀に言わせれば、自分に自信を持っていないからだ、ということになるのだが。

「ああ、ひろ、まっちゃん。いらっしゃい。上がって」

 そう助け船を出してくれたのは克等だった。あとから忠等も顔を出す。挨拶をして、客となった二人は中へ入っていった。

 会いたいと言いだしたのが克美であることを知って、宏紀も松実も驚いてしまった。関係がバレている事実よりも、そんな男の恋人に会いたいと言いだす克美が理解できないのだ。当の克美は平然とお茶を煎れている。

「でも、どうしてですか? 反対されるのならわかりますけど、会いたいとおっしゃるなんて」

 宏紀はただ単純に首を傾げている。恥ずかしがっている様子は微塵も感じられない。松実の方は、ずっと顔に火が付いたままだ。いい加減に水をかけてやらないと、燃えてしまう。

「どうして、か。反対はしませんよ。しても無駄ですからね、うちの息子たちは。でも、関係を強要しているとしたら、それは相手の子が気の毒だと思いましてね」

 克美は茶を出しながらそう返した。そうして宏紀を見やり、苦笑する。

「でも、それはなさそうで安心しました。うちの息子を好いてくださって、ありがとう」

 言って、克美は頭を下げる。首を振って宏紀は克美の肩に手を置いた。

「とんでもありません。どうか頭をあげてください。僕の方こそ、忠等さんには本当にお世話になって、申し訳なく思ってます。大事な御子息を奪ってしまったみたいで、お母さまには本当に申し訳なくて」

 ごめんなさい、と反対に宏紀が頭を下げた。そんな宏紀の肩を忠等が抱き寄せる。克等も、何も言えないでただ宏紀を見ていた松実の頬に涙が流れているのを見つけて、松実の頭を抱き寄せた。

 その動作に忠等と克等のそれぞれの思いと決意を見て、克美は溜息をついた。そして、ただ首を振って、この目の前の恋人たちを引き離すのをあきらめた。





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